Ep7-3 胎動
遮音された会議室で数名のスーツ姿の男たちが机を囲んでいる。手元に資料はなく、記録を残さない非公式な会合のようであった。
「発見された都市制圧兵器の再現実験の進捗状況は?」
「発言にはご注意ください。我が国では『装備』と呼称します」
「わかっている」
最初に発言した男が鼻白んだ表情で手を振り、報告を促す。
「欠損部品の再生産は完了しました。筐体を除いた主要部品の調達はほぼ達成しております」
「新宿の旧陸軍跡地から発見された資料が奏功しました」
「設計図書があるとないとでは大違いだからな。で、当初の性能は発揮できそうか?」
「机上の数値だけでは何とも。やはり実証実験による効果の測定が必要かと」
「確かに。現代科学の枠を外れた機能を持つのだ。研究室レベルで語れることは少なかろう」
「だがこれが有効に機能すれば正面装備の不足を補って我が国の防衛力向上への貢献が大いに期待できる」
「ですな」
「では、大型音響施設を使用した実証実験に移行しましょう。輸送の手配はできていますか?」
「はい。例の“運営”に委託する手はずとなっております」
「む。レイダースとかいう連中を雇うのか?大丈夫かね」
「猿島の件では後始末にずいぶんと手を焼かされましたからな」
「機密保持および任務遂行能力の観点からは問題なしと評価されています。防衛省管轄の装備品とはいえ現時点ではあまり公にできないため自衛隊による輸送は使えません。次善の手段としては有効かと」
「“運営”にはくれぐれも失敗のないようにと釘を刺しておけ」
「はっ」
***
「早速だが、次の仕事が決まった」
「おいおい。やけに唐突だな。少しレイドを詰め込み過ぎじゃないか?」
ショーさんが眉を寄せる。
「今回の仕事はレイドじゃない。“運営”からの指名依頼だ」
「うげ、面倒ごとを押し付けられるやつだ」
ランクA以上のチームにはまれに運営から直接指名される依頼があるそうだ。それらの依頼は原則断ることができない。もっとも、たいていはラグナロクが指名される。太いスポンサーを持つラグナロクは経営陣が運営の上層部と重複する部分も多く、ある意味運営の私兵といえるような側面を持つ。海千山千のレイダースたちをまがりなりにも運営が統制できているのは最大戦力を味方につけているからともいえる。
「猿島のレイドでラグナロクのメンバーにかなりの欠員が出ているらしい。どうしても頭数がそろわず、我々ノクターナルにも参加要請があった」
ショーさんは仕方がないなと肩をすくめる。
「で、どんな内容だ?」
「ロスト・アセットの運搬警備だ。ユナ、詳細を」
リーダーに促されてユナさんがスクリーンに情報を表示する。
【案件コード】 :No.9069-Specific Request
【依頼主】 :枢密統制機構運営本部
【報酬】 :500万クレジット
【依頼ランク】 :A〔特命〕
【ミッション】 :輸送警備
【ロケーション】:本郷一丁目研究施設から中神音楽大学入間キャンパスまで
【情報概要】 :防衛省先端装備局本郷研究所より調整中のロスト・アセット部品を輸送するにあたり、護送任務を要請する。
「輸送車の護衛じゃない。報酬もショボいわね」
桔花は乗り気ではないようだ。
「ロスト・アセットとはいえただの輸送にレイダースを護衛に付けるってことは裏があるのか?」
「そうね。非公開だけど輸送するロスト・アセット部品は戦前に都市制圧兵器として開発されたものだそうよ。戦後も地下に残されていたものが最近発見されて都心から郊外の研究施設に移設する計画があるみたい」
「そりゃまた物騒な話だな。だがそれなら俺たちのような部外者を入れずに極秘で進めるほうがよかろうに」
「これも非公式なんだが運営からのリーク情報によると国外勢力がこのロスト・アセットの強奪を狙っている兆候があるらしい」
「ほう。国外勢力ってぇと、大陸のほうか?」
「いや、北米だ」
ショーさんの口から、ひゅう、と口笛のような息が漏れる。
「運営が気にしているということは、どこかのレイドチームが絡んできますか」
「可能性は十分ある。通常手段だけでなく、術式による妨害にも注意した方がいい」
ユナさんの肩がぴくっと動いた。
「なら、あたしの出番ね。レベルの低い雑魚術師どもは一網打尽にしてやるわ」
敵対的レイドチームが出てくると聞いて桔花が興味をそそられた様子で声をあげる。
「今度のミッションは護衛任務だ。敵が出てくることを望むものじゃない」
「わかってるわよ。でももし出てきたら叩き潰してもいいんでしょう?」
「レイド結界がないからあまり大火力は使えないぞ。それに護衛が目的だから深追いは禁物だ」
「それもわかってるって。広域殲滅じゃなきゃいいんでしょ。ならゲンコツ一発で潰しても問題ないわよね。ようし、接近戦タイプの炎術系統をいくつか仕込んで……」
ウチの特攻隊長は俄然やる気を出したようだ。
「あの、実際はどんな内容になるんですか?」
護送任務なんて初めてだ。イメージが湧かないのでリーダーに訊ねる。
「トラック数台で輸送集団を組む。俺たちはそのうちの一台に車で伴走して襲撃を警戒する役割だ」
説明の続きをユナさんが引き取る。画面に次々と情報を映しながらミッションの全容を解説してくれた。
「輸送トラックは全部で八台よ。四トントラックが七台と十トントラックが一台ね。出発地点は本郷一丁目の防衛省先端装備局本郷研究所。出てすぐに首都高速道路五号線に入り南下、竹橋ジャンクションを経由して中央自動車道方面に向かうわ。その後八王子ジャンクションで圏央道に入り北進、入間インターチェンジで降りてあとは下道で目的地よ」
スクリーンに表示された地図上をルートに沿って青いラインが走る。
「ほとんどの行程が高速道路か。襲撃ポイントも少ないし楽勝だな」
確かに迷いようもないくらい簡単な道順だ。出発地点と到着地点は別動隊も警戒に当たるし、高速道路では渋滞などの足止め以外は警戒する必要はなさそうだった。
「なんだ、つまんない」
我らが暴君姫は過激なのをお望みらしい。
「私たちは十トントラックに着くわ。他の七台はラグナロクの担当よ」
「護衛対象は一台だ。俺とショーが護衛対象の前方を、ユナと桔花、石守の三名が後方を車で追走する」
「その組み合わせだと後方が手薄になりませんか?」
「なによ、あたしと組むのが嫌なわけ?」
「そうじゃないよ。ノクターナルの最大戦力の二人が組むと残りの三人との戦力差が大きくなりすぎるって話でさ」
たじたじとなりながら説明する。
「そうよね。戦力という点では私は足手まといだものね」
今度はユナさんが拗ねたような声をあげる。
「そういう意味じゃ……」
慌ててフォローしようとユナさんを見るとニヤニヤと笑みを浮かべていた。からかわれたらしい。
「敵の襲撃がある場合は前方から来る可能性が高い。攻撃パターンも複数考えられるから臨機応変に対応できるよう俺とショーで当たるのが最適という判断だ」
「通常火器で来るなら俺が、術式メインで来るなら玖条が対応するっていう寸法さ」
「後ろからの攻撃は基本的に相対速度が遅くなる。ある程度判断する時間が確保できるからおまえたち二人でも対処可能だろう」
なるほど、確かにそうだ。時速八十キロメートルで走行している場合、前方からだと相対速度で時速百キロメートルを越える攻撃が容易だけど、後方からだとこちらの速さの分相対速度は落ちて迎撃する余裕が生まれるってことか。
「後ろからの攻撃なんてせいぜい体当たりくらいのもんさ。英太が壁を作れば簡単にしのげるしな」
「ちょっとぉ。それじゃあたしの出番がないじゃない」
「桔花ちゃんにはか弱い私を守る騎士様になってほしいわ」
ユナさんが可愛くウインクを投げる。
「しょうがないわね。ユナはあたしが守るから安心して運転に集中してね」
頼りにされたことで機嫌を直した桔花が胸を張る。
「敵が来たら英太を壁役に置いて逃げればいいわけだしね」
本気でやりかねないから怖い。
「ミッション開始は八月三十日、二十三時ちょうどだ。以上」
夏休み最後の土日はノクターナルのミッションで潰れることになりそうだ。




