Ep7-22 死者の呼ぶ声
宙吊りにされたコンテナの上で対峙するOZのリーダーの手には銃が握られており、漣の右手は痺れたように脇に沿わせて左手で押さえられている。ここには残っていないが、漣の銃は弾かれて失われたらしかった。主導権はリヴィオが握っており、漣は相手の出方をうかがっている。そういう構図だった。
「何が狙いだ」
「何のことかな。今回狙ってきたのは君たちのほうだろう?」
漣がリヴィオに問いかける。が、先ほどからリヴィオはアルカイックスマイルを浮かべたまま、のらりくらりとした対応を続けていた。
「わざと狙わせたな?ユナに情報をリークしたのはなぜだ」
「おや?ユナは報告しなかったのかい」
「……」
「クライアントでもないお節介なやつが恩着せがましく君たちの護衛計画をリークしてきたのさ。実際、そんなのとっくに手に入れていた情報だったのにね。せっかくの追いかけっこが台無しだよ」
やれやれ、スリルの楽しみ方を知らない野暮天だといわんばかりに肩をすくめる。
「ボクとしてはそんな野暮な連中に勝手に恩を売ったと思われるのも癪だったからね。ボクがロスト・アセットを持ち出す日時の情報をこっそり連中に流してやったのさ。連中は自分で得た情報だと思っている。そいつをボクが君たちに流す。君たちは的確にボクの輸送日を狙って奪還を仕掛けてくる。ボクのクライアントは連中のことをどう思うだろうね?」
「それだけのためにロスト・アセットを奪われるリスクを背負ったのか?」
「まさか。そんなのはおまけみたいなものさ。本当は君たちともう一度手合わせをしたかったのさ。前回は不完全燃焼に終わったからね。攻守交替ってやつだよ」
リヴィオが何気なく交わした台詞に漣がぴくっとわずかに反応する。チームのミーティングで出た単語がOZのリーダーの口から出たのは果たして偶然か、それとも……。
疑心暗鬼にのまれそうになる漣に気付く様子もなく、リヴィオは会話を続ける。
「楽しかったでしょう?分散して張り込んで集合して襲撃してまた散って。並みのチームなら囮にすら気づかずに騙されただろうね。それを君たちは見抜いただけでなく、分断されてもそれぞれが喰らいついてOZをここまで追い詰めた。お見事だよ、パチパチパチ」
「それもおまえの筋書き通りなのだろう?」
「疑り深いねぇ。でも、嫌いじゃないよ、そういうの。ボクもあらゆる可能性に思考を巡らせることが大好きだからね」
「……このコンテナにロスト・アセットは入っていないな?三つとも全部ダミーか」
「へぇ、どうしてそう思うの?」
「おまえは遊んだりからかったりするのは好きだが負けるのは嫌いだ。あらゆる可能性を事前に検討するやつが、万が一にもターゲットを失うリスクを冒すはずがない。こんなゲームを仕掛けてきた以上、この場にターゲットはない」
「ふーん、するどいねぇ。いいよ。思った通りだ。やっぱり君はボクと同類だね。だけど遊び心がない。残念なことだよ」
リヴィオが顎に手をあて、軽く腕組みをしてで右に左に歩きながら語り始める。
「お宝が宝箱に入っていない宝探しなんてつまらないじゃないか。それは参加者に対するひどい裏切り行為だよ。そんなことを繰り返したら、誰も遊んでくれなくなっちゃうよ」
足を止めて漣を見ていった。
「だからこの足元のコンテナの中にはちゃんとロスト・アセットが入っているよ。彼、そう、石守君がいたらちゃんと判定してくれただろうね」
その言葉を聞いても漣の疑いの表情に変化はなかった。単純にリヴィオが嘘をついているというのではない。何かもう一つ隠していることがあるのだろうと疑っている顔だった。
それを見て初めてリヴィオが笑顔になった。
「そう、そのとおり。『ただし、それだけじゃない』。うん、この台詞、言ってみたかったんだよぉ」
さすがに漣の表情が曇る。
「この中に『オルフェウスの鍵盤』の心臓部、風箱のレリックは入っているよ。でも中身はバラバラ、壊れちゃってるんだ。もう誰にも直せない」
Humpty Dumpty sat on a wall・・・
リヴィオが上機嫌で鼻歌まじりに童謡を口ずさむ。
「……何が狙いだ」
何度目かの疑問を漣が口にする。
「さっきもいっただろう?お節介な連中にお灸をすえるのさ。クライアントにロスト・アセットが渡ったら連中が自分の手柄だと横柄な口をきいてくるじゃないか」
「だがOZもクライアントの不興を買うことになるだろう」
「うーん、まあちょっとはね。だけど契約上のボクの役目は『運営』から移送中にターゲットを奪うところまでなんだよね。そのあとの妨害については『運営』がどこまで本気になるかわからないから、万が一のときはゴメンナサイすればいいことになってるんだ」
こんなときだけとっておきの子供っぽい表情でかわいく台詞を吐く。
「そんな言い訳が通じるとは思えないが……」
「へへへ。せっかくここまで聞いてくれたからとっておきの話をしてあげるよ」
子供っぽい表情で邪気のない笑みを浮かべる。
「実はね、防衛省からのロスト・アセットの強奪が目的だったんだけど、それが無理な場合は完全な破壊というのがクライアントの意向だったのさ。だからOZは最初の目的を達成し、その上契約外の襲撃にも対応してクライアントの最低限の意向も満足させたっていうこと。どう、すごいでしょ?こんなに完璧な成果を上げたコンストラクターを低評価にするようじゃ、クライアント側の評判にも傷がついちゃうよね?」
リヴィオに底知れない何かを感じて漣でさえ言葉もなく沈黙する。
「それに、|完全な破壊は君たちにとっても達成すべき目標だったんでしょう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》?」
「なっ」
思わず漣が息を飲む。気にせずリヴィオが言葉を続ける。
「この国ではこういうの、『三方一両損』ていうんでしょう?ボク、現地のことわざにも詳しいんだよ」
くすくすと無邪気に笑う声が悪魔のように響く。
「何が狙いだ?」
底知れないOZのリーダーの意図するところ。複雑な仕掛けで全部を意のままにコントロールするやり口が、ただ負けないためだけに行われた行為だとは思えない。リヴィオには何か明確な目的があるはずだ。漣の勘がそう告げていた。




