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Ep7-18 カーチェス

『ショーは早めに仕掛けろ。俺とユナはこのまま二両を前後に挟んでコンテナヤードに入ってから仕掛ける』

「了解……っといったが一車線じゃどうにもならんな」

 側道にそれたトレーラーを追ってこちらも側道に入ったが道は一車線で立体交差の下をくぐるUターン路になっていた。低い天井の隘路を速度を落としたコンテナトレーラーが車道の幅一杯を使って曲がっていく。そのあとをピックアップトラックが追従する。

 直線を向いてトレーラーがググッと加速を始める。

 長い車体が立体交差との合流レーンを抜け切る前にショーがハンドルを切ってピックアップトラックを右の車線に出した。アクセルを踏み込み一気にトレーラーの運転台に並ぶ。

 ショーに右側を抑え込まれたトレーラーは次の交差点で左折していく。

 ピックアップトラックはトレーラーヘッドの右をカバーして左折し、複数ある車線の一番左側にトレーラーを押し込めたまま並走する。

 加速するトレーラーとピックアップトラックがぴたりと鼻面を合わせて湾岸の人工島を結ぶ直線道路を疾走する。先行する車両がいれば間違いなく追突を免れない。

 空港につながる地下トンネルの分岐点が近づく。

 コンテナトレーラーがトンネル側に寄ろうと幅寄せを仕掛けてくる。

「このまま空港を目指す腹か。させるかよっ!」

 ショーが分岐を示すゼブラゾーンの手前で左に急ハンドルを切る。ピックアップトラックがタイヤを鳴らしながらトレーラーヘッドに体当たりをかました。トレーラーヘッドが衝突の反動で左によれる。

 ガガガッ

 ピックアップトラックのパワーに任せてそのままトレーラーヘッドを左へと押し込んでいく。相手も負けじと押し返してくるが、ピックアップトラックは踏ん張り続け、ついに分岐点を越えて相手の逃走を阻止した。

 海底トンネルから分かれた枝道はすぐに人工島の端に突き当たって丁字路になる。このまま真っすぐ進めば東京湾だ。

「おまえは右には進ませねぇ」

 ショーはトレーラーに、左に逃げるか潔く海に飛び込むかの二択を迫る。

 グッと減速を開始したトレーラーの動きを敏感に察知してショーも速度を落とした。大きく膨らんで左に曲がっていくトレーラーの幅寄せを急減速で避けて後ろに回り込む。

「追い込んだぜ。おまえはもうこの島から出られんぞ!」

 今度はトレーラーの左側に回り込んで左折を妨害する。

 直線道路をピックアップトラックとトレーラーが火花を散らし体当たりを繰り返しながら爆走していく。

 緩い左カーブをサイド・バイ・サイドで走り抜けるとき、コンテナが遠心力で大きく傾く。何とか横転は免れて直線道路に入ったものの、レーラーはけん引しているコンテナ部分が左右に蛇行するように暴れて制御不能に陥ろうとしていた。相手は仕方なく速度を落として制御を取り戻す。

「スピード勝負は俺の勝ちだ!」

 ショーが不敵に笑って速度を合わせ、トレーラーヘッドの左横にぴったりとにつける。これでもうトレーラーは左折できない。

 ついに二台は絡み合うようにして最後の交差点を通過し、比較的小さな貨物船向け港湾施設のゲートを通過した。

 左右を倉庫に囲まれた直線を二台はぴたりと鼻面をそろえたまま並走して突き進む。

 正面に見える岸壁まで障害物はない。

 速度で勝てないトレーラーがブレーキ勝負で前に出ようと誘いかける。

「チキンレース上等だ。アメ車の制動力を舐めんなっ!」

 互いに示し合わせたように二つの鉄の塊がまっすぐに岸壁に向かって突っ込んでいく。

 最後の数十メートルを切り、先にトレーラーがブレーキを踏み込んだ。

 ギョアァァァァッ

 強力なエアブレーキが大質量に制動をかけ、何本もの巨大なタイヤがコンクリートを擦って狂ったような叫び声をあげる。

 後方に下がるトレーラーヘッドを横目で見ながら、ショーは余裕を持ったブレーキングでピックアップトラックを制御した。

「ストッピングパワーでも俺の勝ちだ。相手が悪かったな」

 不敵に笑いながらバックミラーを覗き込んだショーの表情が一転して引きつる。

 ギャギャギャアァァ

 急ブレーキをかけたトレーラーはコンテナ部分のタイヤがロックして制動力を失い、横向きに路面を滑ってくる。トレーラーヘッドを追い抜く勢いで、くの字に曲がった巨体がショーの乗るピックアップトラックを包み込むように迫る。前方は海だ。

「今度は心中攻撃かよっ!こなくそーっ」

 ショーがハンドルを左に切り、停められていたフォークリフトやパレットを派手に跳ね飛ばしてシャッターの閉じた倉庫にピップアップトラックを突っ込ませた。

 シャッターを突き破る衝撃でエアバッグが開く。それを即座にさばきながらなんとかピックアップトラックを制御して停車する。

「ふう、倉庫が空で助かったぜ」

 直後にトレーラーが横滑りする凶暴な騒音がぴたりと消え、一瞬の静寂が港湾施設を支配する。次の瞬間、巨大な鯨が水面に身を投げるような激しい音とともに水しぶきが上がった。

 ショーが急いで運転席から出る。

 頑丈なピックアップトラックは表面こそ傷だらけで凸凹にへこんだが、走行系はダメージを受けていなかった。

 岸壁に立ったショーの目の前では落下したコンテナがすぐには沈まずに海上に浮いている。水没していくトレーラーの運転台には人影はなかった。

「ちっ、リモート運転か。つくづくドローンが好きな野郎だ」


 ***


 前方に回った漣のオフロードバイクをトレーラーが押しつぶそうと迫る。が、漣は闘牛士が牛をあおるようにひらりひらりと突進を避けつつ、距離を開けずにトレーラーの前を走り続ける。やがて右手に高く積まれたコンテナの山が見えてきた。タンカーへの積載を待つコンテナが集積されているコンテナ・ヤード区画だ。

「!」

 突如前方から飛来した小型ドローンをぎりぎりで避ける。

 続々と押し寄せるドローンを回避するうちにトレーラーが急減速をしてコンテナ・ヤードの中へ入っていく。

 漣はミラー越しに右折していくトレーラーを確認すると表情を変えずにオフロードバイクの後輪をスライドさせながら次のコンテナの切れ目を同じく右に曲がる。だがそこには別のコンテナでできた壁が立ちふさがっていた。続けて左に曲がり、コンテナ沿いに走る。すぐにドローンが現れて新たな体当たり攻撃を開始した。

「向こうか」

 コンテナの隙間から一瞬、疾走するトレーラーが見えた。

 漣は車では入れないコンテナ間の隙間にオフロードバイクをねじ込み、ドローンを振り切りつつ隣のレーンへと移動する。

「逃すか」

 トレーラーを発見してアクセルを大きく開き、追いつき追い抜く勢いで加速する。

「むっ」

 視界の上方で何かが光を反射した。直観に従いブレーキを握りこむ。車体を傾け、カウンターを当てながら急減速する漣の前に、轟音を立ててコンテナが転がり落ちてくる。山のように積まれたコンテナが次々と崩落して一瞬にして目の前の通路をふさいだ。

 もうもうと舞い上がる土煙の中から、漣の甲高いエンジンが響く。

 ヴァァァァ、ヴァーーン

 斜めに傾いたコンテナの屋根を斜路のように使ってオフロードバイクが飛び出す。高く飛び上がったバイクのタイヤが次のコンテナの屋根を嚙み、疾走する。

 コンテナの最上部に上った漣は高い位置からターゲットのトレーラーを視認し、屋根を走路にして追いかけていく。

 ヒィィィン

 先ほどの小型ドローンより一回り大きいドローンが後方より飛来し、追い抜いていく。

「戦術を変えたか?」

 ドローンは漣のとるコースの先に着底するとその場で炸裂した。

 漣は不安定な足場でさらに加速し、着底したドローンが爆発するより先に通過する。

 眼下にターゲットのトレーラーが見える。追いついた。

 漣がトレーラーのコンテナに飛び移るべくバイクでジャンプする。空中で加速できなくなった瞬間を狙って数台の自爆ドローンが漣に襲い掛かった。

「ちぃっ」

 漣は空中でバイクのシートに立ち上がると、ハンドルから手を放しバイクを蹴ってコンテナトレーラーにダイブした。

 漣の飛びのいたバイクに複数の自爆ドローンが張り付く。

 漣が疾走するコンテナトレーラーの上に転がるように着地した瞬間、空中で自爆ドローンが爆発した。

「くっ」

 漣は破片を受けながらなんとかコンテナの屋根にしがみついている。

 トレーラーが左折に向けて減速すると、屋根の上の漣の体は慣性で前方に投げ出されるように滑り出した。すばやく左腕のタッチキーを操作して術式を選択し、両手両足に磁力を発生させてコンテナの屋根に張り付く。

 そのとき、インカムからショーの声が響いた。

『漣、こっちはダミーだった。敵さんはトレーラーごと海にダイブだ』

「了解した。こちらはターゲットに取りついた。このまま積み替えのタイミングを待つ。位置情報をモニタして移動先が確定したら合流してくれ」

『了解。気をつけろ、漣。今日のOZの攻撃は殺意が高いように感じる』

「わかっている」

 コンテナトレーラーはそのまま近くのエプロンに向かうと思われたが、予想に反して大井ふ頭のコンテナヤードを離れ再び一般道に出た。

「どこに向かっている……」

 漣の張り付いたコンテナトレーラーは何度か左折をした後、海底を抜けるトンネルへと進んでいった。海上の高い位置に完璧な満月がかかっていた。

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