Ep7-16 空中サーカス(2)
大型バイクにタンデムでまたがり、追跡をスタートする。最初はぴったりと張り付いてコンテナの中身がロスト・アセットかどうかを精査するのだ。
「どう?」
「はい、間違いないです。コンテナ内部に量子結晶の反応があります」
「ビンゴね。二人に連絡を取るわ。コール・チャネルゼロ。ユナです。こちらに動きがありました。積み荷は量子結晶反応あり。現在第三京浜高架下道路を走行中。一般車両が見えなくなったところで仕掛けます」
『了解した。そちらへ向かう』
『ちぇっ、こっちは外れか。こちらもできるだけ早く合流する。オーバー』
「こいつが囮っていう可能性はないですか?」
「そうね。可能性ならあるけれど、OZのプロファイリングからするとまず間違いなく本物ね。彼は目の前に餌を吊り下げておいてひょいと隠す。そういうやり口を好むのよ」
「だとしたらこれもそう簡単には手が出なさそうですね」
「ええ。だから確実に止められる場所で仕掛けるつもりよ。このルートだと東名高速道路を使うのかしら。川崎インターチェンジに入ったところが狙い目ね」
だがユナさんの予想は外れた。トレーラーは順調に走っていた擁壁沿いのような道路から何もない脇道に左折して入っていく。
「ここは……まさか!」
トレーラを追って左折したバイクは対向車線を使って前に出るべく加速する。トレーラーもアクセルいっぱいに踏み込んで加速しているようだがタンデム走行とはいえ国産最高峰のトルクを誇るスポーツバイクの敵ではない。すぐにトレーラーに並走する位置につけた。ちらりと運転席に目をやったユナさんが息をのむ気配が伝わる。
「あなたは……」
運転席にいたのは先日の運転手と背格好はそっくりだが容貌が違っている。
青味がかった灰色の髪。色素の薄い滑らかな肌。大理石の彫像を思わせる均整の取れた顔だち。口元に浮かべているアルカイックスマイルがOZのリヴィオと名乗った声の主のイメージにぴったり一致した。
「やあ、来たね。ユナ。楽しいお茶会にご招待するよ」
「リヴィオ……あなた……」
驚きではない、安堵でもない郷愁でもない不思議な親密さと何か巨大な存在に対する怯えが声に乗る。
「ユナさん、前っ!」
「はっ」
前方から暗闇に紛れた小型ドローンの群れが押し寄せる。
ドローンは量子結晶で動いているようで、そのおかげでなんとか事前に察知できた俺は、前方に空気でできた物理障壁を展開する。
ビシッビシッとヘッドライトに誘われた昆虫のようにドローンが物理障壁にぶち当たって左右に吹き飛ぶ。こちらへのダメージはないが、バイクの速度が落ちる。すぐにトレーラーはバイクを引き離し、施設のゲートを越えて進んでいく。
そこは鉄道の引き込み線のようになっていた。
何本も並行して走る線路のわきに貨物の積み込みエリアが広がっている。ドローンの群れに阻まれた先で、トレーラーが停止するのが見える。
カタンカタン、カタンカタン
前方から速度を落とした電気機関車のライトが近づいてくる。
ピィィィ
時速十キロメートルほどに速度を落とした長い貨物列車が貨物ターミナル駅をゆっくりと通過していく。
個々の攻撃力はないに等しいドローン群に数で押されて前進を阻まれた俺とユナさんは空気で作った防壁越しにトレーラーの様子をうかがうことしかできない。
「くっ」
次から次へと湧き出して体当たり攻撃を仕掛けてくるドローンを障壁で押し戻し撃ち落とす。
「あれは何?」
ドローン越しにユナさんの示す方向からロスト・アセットを積んだトレーラーに向けて巨大なマルチコプタータイプのドローンが四機接近してくる。
四機のドローンはトレーラーのコンテナ部分の四隅に取りつくと、ひときわ大きい風切り音を上げ始める。やがてコンテナがトレーラーから切り離されてゆっくりと空中に浮かび上がった。
「何をする気?」
大型マルチコプターが持ち上げたコンテナが徐行運転中の貨物列車のほうへと飛行していく。
「まさか走行中の列車に積み替えるつもりじゃ……」
俺のつぶやきを肯定するように、浮かび上がったコンテナが列車の上空に位置取り、列車に相対速度を合わせていく。長い長い貨物列車は途切れることはなく線路上には空の貨車がつづく。ドローンに制御された空中サーカスは見事に走行中の貨車に位置と相対速度を合わせ、ゆっくりとコンテナを下ろしていった。
ガコン、カシャン
貨車に備えついているセミオートのツイストロックがコンテナをしっかりと受け止めて固定する。コンテナの換装を終えたマルチコプターは少し滞空した後、一気に高度を上げて飛び去った。
呆然とコンテナを見送る俺たちの周りからはいつの間にかすべてのドローンが姿を消していた。貨物列車はそのまま何事もなかったかのように線路を走り去っていく。
「はっ、リヴィオ……」
残されたトレーラーの運転席に駆け寄る。だがそこには人の気配はなかった。
貨物ターミナル駅を通過した貨物列車は徐々に速度を上げ、地下へと続くトンネルへと入っていく。満月の明かりに赤く浮かんでいた最後尾の反射板がかき消すように見えなくなった。




