Ep7-15 リベンジマッチ
「ちょっと、来るなってどういうこと?」
登校するなり待ち伏せしていた桔花にいきなり捕まった。
「うぇっ?たんまたんま。ここじゃまずいって」
何の話か分からないが桔花が女王様モードのときはたいていレイドがらみの話題だ。学校の昇降口で口にできる話ではない。桔花が続々と登校する生徒の群れを見て小さく舌打ちをする。
「こっちに来なさい」
昇降口から少し離れて声が届かない場所まで着いていく。
「リベンジマッチの件ってどうなったのよ?」
「俺もまだ知らされてないよ。今日ミーティングがあるからそのときに詳細が聞けると思うけど……」
「ちっ、思った以上に情報統制が厳重ね」
「リーダーからは何も言われていないのか?」
「当分、拠点には来るなって言われたわ」
なるほどね。それでさっきの言葉になるのか。直情径行型の彼女のことだ。作戦の詳細を知ってしまえばじっとしていられなくて暴走しかねない。徹底した情報封鎖のために学校で接点のある俺にも直前まで詳細を知らせないようにしているってことかな。
「俺から聞き出そうとしても教えないからな。リーダーから命令が出ているならなおさらだ」
指を突き付けるようにして強調する。先手を打って釘を刺しておかないと詰められたときに俺のほうが折れてしまいそうだし。
ぐぬぬぬと睨みあう俺たちの背後から声がかかった。
「片梨さん、おはようございます。お体のお加減はいかが?」
びくっとして振り向くと綾神さんがにこりと微笑んで立っていた。
「出たわね。お邪魔虫。今チーム内の話し合いをしているの。部外者は遠慮してくれる?」
しっしっ、と手振りで追い払おうとする。
綾神さんが笑顔でずいっと俺の前に出て片梨さんと向き合うと、ほとんど聞こえないくらいの小声で言った。
「公共の場でそのような会話はご法度ですよ。それにあなたには謹慎命令が出ているはずです」
「あんたの差し金だったのね。余計なお世話よ」
「片梨さんの体調にはわたくしどもも憂慮しているのです。日常生活には支障がないと報告を受けておりますが、外では無理をなさらず安静にしてくださいね」
きっ、と視線を強くする桔花と、にこにことした笑顔で受け流す綾神さん。一瞬のにらみ合いは綾神さんに軍配が上がった。
「ふん、分かったわよ」
ずんずん、と効果音の聞こえてきそうな歩き方で去っていく片梨さんを綾神さんと並んで見送る。
「片梨さんが無理をなさらないようにお願いしますね」
「はい」
桔花が暴走しないようにするためにも、俺たちできっちりと今回の件の決着をつけなければと決意を新たにする。
「英太様もあまりご無理をなさいませんよう。お気を付けくださいませ」
「ええ」
リベンジマッチはノクターナルの単独行動だ。レイド外の活動だから運営の関係者らしい綾神さんも知らないはずなのだけれど、見通すような瞳はすべてを察しているように静かだった。
その夜、ノクターナルの拠点で作戦に関するミーティングが行われた。
「候補地は三か所まで絞り込めたわ」
ユナさんがモニタスクリーンに地図を映し出す。
練馬区の都心から少し離れた場所に一か所、都内のど真ん中といっていい場所に一か所、そして都心から南西の方角に伸びる幹線道路沿いの多摩川を挟んだ対岸に一か所、輝点が描き出される。
「戦力を分散するのは心もとないな」
「だが探索だけにこれ以上時間をかけられない。今度の日曜日深夜に搬出されるという情報もある」
「そりゃまたずいぶん具体的だな。信用できる情報なのか?」
「ええ……」
ユナさんのまつげが揺れる。
「目標は輸出の阻止だ。まずターゲットの所在を確定させる。次に単独で足止めが可能ならば運搬車両の妨害を行う。その間にほかのメンバーが集結して全員で制圧する。足止めが難しい場合は目的地の特定を優先してターゲットに張り付く。他のメンバーは目的地に先回りして挟撃を試みる」
レイド結界外だから大火力の使用や目立つ違法行為は避けなければならない。だが積み荷の安全を無視するなら、トラック一台を走行不能にする手段はいくつか用意があるということだった。
「ショーが練馬の中神音楽大学ベートーヴェンホール。俺が都心の聖イグノシス教会に向かう。ユナは御手洗学園音楽大学前嶋ホールを担当してくれ」
「了解」
「あの……俺は?」
リーダーが俺の顔をじっと見つめる。緊張にごくりと喉が鳴りそうになる。
「同じレイド結界外の活動といっても今回は運営のカバーがない。警察組織に捕捉されるリスクは比べ物にならない」
「はい、覚悟はできています」
「英太、おまえの思う覚悟とは現実は次元が違うぞ」
ショーさんが視線を厳しくしていう。
「わかってます。本当のところなんて全然わかっていないんだってことくらい」
「なら……」
「桔花にもそういうんですか?未成年だからって、逃れられるんですか?」
ショーさんが口をつぐむ。桔花の背負ったものが何なのかはまだ教えてもらえない。だけどそれが彼女の細い肩に背負わせるには重すぎるものだってことくらいはわかっている。
「俺は彼女を守ります。彼女の背負っているものが何なのかわからないけど、でも俺にしかできないことがあるって気がするし。彼女を支えるために俺にできることをする。それが俺の覚悟です」
「おまえの覚悟は理解した。ならばノクターナルのリーダーとして命令しよう。英太、ユナと組んで御手洗学園音楽大学にあたってくれ」
「了解!」
いつも通りの淡々とした口調だったけれど、リーダーが俺を名前呼びしたことが信頼の深まりを感じさせてくれる。ようやくノクターナルの一員として認められた気分だ。決意を新たに俺はぐっとこぶしを握った。
「ちょっと見直したわよ。英太君」
「ユナさん」
「はい、これ」
手渡されたのは私服に偽装できるタイプのプロテクティブスーツだった。といっても、革ジャケットに革パンツの装いで、これを着て街を歩くのはちょっとどころではない勇気がいる。
「ユナさん、これ……」
「覚悟決めたんでしょう?それくらいオシャレに着こなしなさいよ」
くそー、目が笑っている。
「大丈夫。君は素材はいいんだからセンスを磨けば結構似合うと思うわよ」
そのセンスがないんですって。
「そうそう、当日現地集合ね。最寄り駅までは電車で来てちょうだい」
「そんなぁ」




