Ep7-14 ペナルティ
「無期限のレイド参加資格停止だと?!」
「ああ。今朝、運営から正式に通達があった」
「あのミッションは特命だったろうが。それがなんでレイドに関係してくるんだよ。おかしいだろ」
「ランク降格くらいはあるかと思っていたが、予想以上のペナルティを科してきたな」
「ラグナロクの連中はどうなんだ?やつらも参加停止なのか?」
「チームとしては厳重注意にとどまったようだ」
「おいおい、ずいぶんと扱いが違うじゃないか」
「そうでもない。ミッションに参加したメンバーは閑職に追いやられたようだ。参加した個人ベースでみればうちと同じような処分だ。ラグナロクは規模が大きいからチーム全体を参加資格停止にすることはできなかったようだな」
「くそっ」
ショーが悪態をついて背もたれに体を預ける。
「だがどうするんだ?レイドに参加できないとなると、嬢ちゃんのガス抜きができなくて困るんじゃないか?」
「今現在でいえばむしろ現場から離しておきたい。最近は負荷がかかりすぎている」
「確かにな……」
ショーが頭の後ろで手を組んで虚空を見つめる。『オルフェウスの鍵盤』が呼び覚ました体験を思い出して顔をしかめている。
「とにかく、今はレイドよりも強奪されたロスト・アセットを見つけるほうに注力する。ユナ、何かつかんだか?……ユナ?」
「……あぁ、ごめんなさい」
ミッション失敗以降、ユナは懸命に『オルフェウスの鍵盤』の心臓部である風箱の行方を捜している。が、ときどき思いつめた表情でぼうっとしていることがある。漣は様子を見守りつつ、あえてそこには触れずに捜索の進捗を尋ねた。
「足取りはつかめたか?」
「まだ見つかっていないわ、ごめんなさい。秩父から都心方面に移動したことはわかっているんだけど」
「相手が有能なだけだ。謝ることではない」
「……ええ。ただ、今のところ海外への搬出は形跡はないわ。空輸のほうは税関のシステムに侵入してアラートを設置したし、船便に関しても正規ルートは押さえてあるわ」
「ってーことは、もし連中が見つからないように輸出しようとするなら裏ルートの船便ってことか」
「そのとおりよ。彼が持ち出すとしたらきっと埠頭で直接タンカーに積み込むはずだわ。隠し場所から埠頭までの移動途中が奪還のチャンスね」
「へっ、攻守交替ってやつだな」
「だけど肝心の隠し場所が見つかっていないの。五ヶ所ほど候補は絞ったんだけど……」
「へぇ、どこなんだ?」
「青山学園大学メモリアルホール、聖イグノシス教会、中神音楽大学ベートーヴェンホール、國立音楽大学講堂、そして御手洗学園音楽大学前嶋ホール」
ユナの声に呼応してスクリーン上の地図に輝点が描かれていく。どこも大型のパイプオルガンが設置されている音楽ホールだ。
「しらみつぶしにあたるしかねぇか……」
ショーが立ち上がり、スクリーンに打たれた輝点を睨んだ。
國立音楽大学講堂にほど近いカフェでユナはコンソールを開いていた。
画面から目を離し、窓から少し離れたところに見える赤レンガ色の講堂を見やる。コンソールの画面にはマルチ表示された講堂の見取り図があり、点滅する交点が各フロアをゆっくりと移動しながら走査している。ユナが放った探索用小型ドローンが建物内の量子結晶反応をスキャンしているのだ。
ふと目を戻すとウインドウの一つでエラー表示が点滅していた。
ドローンの不調だろうか。
ユナはコンソールを叩いて該当するドローンのセルフチェックを走らせた。メイン機能は正常に動作しているようだが、先ほどから指定コースを外れているというアラートが出ている。駆動系の故障だろうか。自律制御で戻ってこれなければ証拠を残さないためにも自分で回収に行かなければならない。
「変な場所に挟まってたりしないでよ」
独り言をつぶやきながら現在位置情報を詳細な地図にマッピングする。
「えっ?」
ドローンの現在位置は講堂を大きく外れていた。
「この場所は……」
後ろを振り返ろうとした肩を冷たい手が押さえる。それだけでユナは身動きを封じられた。
「OZに向かってドローンを放つなんて、いい度胸しているよね」
肩越しに手が伸びてユナの目の前に小型ドローンを置く。ユナの喉がごくりと動く。
「いい線いっているけど、残念ながら不正解だ。ここにはないよ」
主語が省略されているが、もちろんロスト・アセットのことだ。
「……あなた」
「おっと。この前も言ったけど小銃は禁止だよ、この国ではね」
ハンドバッグに忍ばせた銃を取り出そうとしていた手に冷たい手が添えられる。大人にしては細い指がこわばるユナ指をほどいて銃を取り上げ、表面をそろりと撫でるとそのままハンドバッグの奥に戻す。
相手の口が耳元に寄せられる。
「日曜日の夜、日付が変わるころに出発する」
「どういうつもり?」
「そうだね。この前のミッションでは君たちの警備プランは事前に情報を受け取っていたんだ。ボクは要らないって言ったんだけど、クライアントでもないのにおせっかいな人が居てね。勝手に送り付けてきて恩を売ろうとするから困ったよ」
背後の人の気配が急速に薄れ、声が遠ざかる。
「せっかくのリベンジマッチだ。条件は同じにして、フェアにいかないとね」
「待って、顔を見せて」
「……姿形に意味はないよ。ユナ……」
声の主が姿を消したあとも、ユナの心は耳の奥にのこる懐かしい響きに囚われて動けずにいた。ユナ、と囁いたその響きは間違いなくリヴィオのものだった。




