第4話 転生令嬢、お茶会へと招かれる
私の評価は、少しずつ持ち直していった。
屋敷の使用人の人たちも、だんだんと挨拶を交わすようになり、会話の回数も増えていく日々。
そんなある日、旦那様にお茶会へと招かれる。
「…………」
「…………」
うん。会話が全然無いわ!
もっと言葉のキャッチボールしようぜ?
「アリシア」
突然、鋭い視線がこちらを射抜く。
「……はい。何でしょうか、アシェル様」
――めっちゃびっくりしたけど、何とか表に出さなかったぜ、セーフ!
「マリーから聞いた。最近、随分と頑張っているそうじゃないか」
旦那様はそう言って、カップを静かに傾けた。
「……はい。せっかく嫁いで来たのですから、少しでもお役に立てればと思いまして」
私はにっこりと笑顔を浮かべてみせる。
「何故、そこまでできる?」
「君は、無理やりこの家に連れてこられたはずだろう」
旦那様の視線が鋭くなる。
――ああ。これは誤魔化せない。
私は一度目を閉じ、小さく息を吐いた。
「私は、山奥の小さな村で育ちました」
覚悟を決めて、ゆっくりと目を開く。
「む?」
「その村で私は……ずっと、よそ者だったんです」
「っ!」
旦那様が、驚いた表情を浮かべた。
本気で驚いている姿を見て、「ああ、この人は本当にいい人なんだな」と小さく笑う。
「だから私は、村に受け入れられるために、いつも笑顔を絶やさず、皆が嫌がることを率先して引き受け、誰よりも努力してきました」
――この家に嫁いできてからも、貴族令嬢の仮面を被り続けていられたのは、村にいた頃から、ずっと仮面をつけて生きてきたから。
「それでも、完全に村の仲間として認められることは、ありませんでした」
言葉は、もう止まらなかった。
「だから……努力すれば、その分ちゃんと認めてもらえる今の状況は――」
旦那様をまっすぐ見て、微笑む。
「私にとって、とてもやりがいのあるものなのです」
沈黙が落ちた。
そんな中、ふと思う。
実家の従者たちから、「絶対に人前で外すな」と言われていたレースの手袋。
――もし、この人に見せたらどんな反応をしてくれるのだろう。
私は、ゆっくりと指先を引っかけ、それを外した。
「……っ!」
旦那様が、息を呑む。
そこにあったのは、何度も弓を引いた結果、豆が潰れ、皮が厚くなった、決して綺麗とは言えない手。
――あ、引かれたかも……
胸の奥が、きゅっと痛んだ。
――やっぱり、こんな手。貴族令嬢には相応しくないよね。
そう思った瞬間。
突然、手が温かくなる。
「……?」
顔を上げると、旦那様が、私の手を包み込んでいた。
「わかるよ。何度も……練習したのだろう……?」
優しい声。
「その……俺は、良いと思うぞ……」
一瞬、何を言われたのかわからなくて。
気づいた時には、顔が熱くなっていた。
ああもう、
こんなの、反則でしょう。
――その日から、私はレースの手袋を付けなくなった。




