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第十九話 家族会議を開きました

 家族会議を開こう、と言い出したのはわたしだった。


 来月の調査まで三週間を切った。その日の朝食で、わたしはお父様に言った。


「おとうさま、かいぎをひらきましゅ」


「かいぎ?」


「うん。お父様と、お兄様と、ジルと、わたしで。ぎだいはわたしのことでしゅ」


 お父様が少し考えてから、うなずいた。


「……構わないが、何をするつもりだ」


「じょうほうをせいりして、やくわりをきめて、もくひょうをあわせましゅ」


「それは……確かに必要だな」


「じゃあ、きょうのごごでいいでしゅか」


「ああ」


「よんじゅっぷんあれば、だいじょうぶでしゅ」


「四十分で終わるのか」


「よていでしゅ。こえてもごじゅっぷんまでにしましゅ」


 お父様が不思議そうな顔をしたが、承諾した。


 午後、四人が食堂に集まった。


 テーブルの中央に、わたしが紙を一枚置いた。


 紙には、わたしが書いた文字と図が描いてある。三歳の字なので、少し不格好だ。でも内容は伝わるはずだ。


「では、かいぎをはじめましゅ」


 三人が顔を見合わせた。


「ぎだいはひとつでしゅ。らいげつのちょうさに、どうたいしょするか、でしゅ」


「……フィアが仕切るのか」


 ルードが言った。


「うん。ぎちょうをやりましゅ」


「三歳が議長か」


「だめでしゅか」


「……構わない」


 ジルが控えめに手を上げた。


「あの、フィア様、その紙に書いてあるのは……」


「じょうほうのせいりでしゅ。みんながしっていることと、しらないことをわけましゅた」


 紙には三つの欄があった。「みんながしっていること」「わたしだけがしっていること」「ふめいなこと」だ。


「さいしょに、じょうほうのかくにんをしましゅ。おとうさまから、おうけのちょうさのよていをおしえてくだしゃい」


 お父様が少し目を丸くしてから、話し始めた。


「来月の十五日に、グレンドル翁がまた来る。今回は三泊の予定で、屋敷全体を調べると言っている。随行者も前回より多い。五人程度来る見込みだ」


「わかりましゅ」


 わたしは紙に書き込んだ。


「つぎに、まほうのせいぎょのじょうきょうを、ジルからほうこくしてくだしゃい」


 ジルが少し驚いた顔をした。


「は、はい。フィア様の魔力制御は、着実に進んでいます。意識的な制御は九割方できるようになりました。感情連動の部分は、七割程度です。猫に関しては……」


「ごわりでしゅ」


「はい、五割程度です」


「わかりましゅ。ねこは、かだいでしゅ」


 ルードが小さく笑った。


「猫だけ別枠か」


「べつわくでしゅ。とくべつなカテゴリでしゅ」


「了解した」


「つぎに、おにいしゃまから、ぎゅうけのうごきについて、わかっていることをおしえてくだしゃい」


 ルードが少し固まった。


「……俺が把握しているのか」


「うん。おにいしゃまは、まちのひとたちとはなしていましゅ。じょうほうをもっていましゅ」


「……確かに、少し聞いている。グレンドル翁は今年だけで七つの家を訪問していると聞いた。ヴェルター家はその中でも優先度が高いらしい」


「そうでしゅか。なぜゆうせんどがたかいでしゅか」


「……前回、手応えがあったからじゃないかと思う」


「フィアのまほうを、かんじたでしゅか」


「可能性はある」


「わかりましゅ」


 わたしは紙に書き込んだ。


「では、たいしょほうをきめましゅ。みっつあります」


 三人が紙を見た。


「ひとつめ。まほうのせいぎょをさらにあげましゅ。とくにかんじょうれんどうの部分でしゅ。ジルとまいにちれんしゅうしましゅ。ねこのせいぎょも、がんばりましゅ」


「了解です、フィア様」


「ふたつめ。ちょうさのあいだ、わたしはへやにいましゅ。ただし、にげましぇん。おなじおやしきにいましゅ」


「それについては、俺も賛成だ」


 ルードが言った。


「うん、ありがとうでしゅ。みっつめ」


「なんだ」


「お父様の胃をまもりましゅ」


 三人が少し固まった。


「……議題の三つ目が、俺の胃か」


 お父様が言った。


「うん。たいせつでしゅ。お父様のからだが、このプロジぇくとのかなめでしゅ」


「プロジェクト」


「えっと、たいせつなおしごとでしゅ。お父様がたおれたら、みんながこまりましゅ。だから、しょくじをちゃんとたべてくだしゃい。ねるじかんもとってくだしゃい」


 お父様がわたしを見た。


「……それを議題にするか」


「はい。じゅうようでしゅ」


「分かった。努力する」


「やくそくでしゅ」


「……約束だ」


「よかったでしゅ。では、かくにんでしゅ。みなさん、やることはわかりましゅたか」


 三人がうなずいた。


「わたし:まほうのせいぎょ、とくにねこ。ジル:まいにちれんしゅうのどうはん。おにいしゃま:まちのじょうほうをあつめる。お父様:おからだをたいせつに、ちょうさのたいおうをする。これであっていましゅか」


「……合っている」


「かいぎ、しゅうりょうでしゅ。よていより、じゅっぷんはやく終わりましゅた」


「……本当に終わったのか」


 ルードが少し呆然としながら言った。


「うん。よていとおりでしゅ」


「三歳に仕切られた」


「それで、問題がありましゅたか」


「……ない」


「よかったでしゅ」


 ジルが控えめに手を上げた。


「一つよろしいですか」


「うん」


「猫の制御は、どうするつもりですか。具体的に」


「ねこをみるまえに、いちどめをとじましゅ。それから、いきをすいましゅ。それから、めをあけましゅ」


「……それで、抑えられますか」


「やってみましゅ。もしだめなら、ほうほうをかえましゅ」


「そうですか」


「ジルのためいきが、またふえるかもしれましぇんが、がんばりましゅ」


 ジルが少し笑った。


「……フィア様のためなら、ため息くらい構いません」


「ありがとうでしゅ、ジル」


 お父様がわたしを見た。


「フィア、今日の会議、よくできた」


「うん。ありがとうでしゅ」


「一つだけ聞いていいか」


「うん」


「こういう会議の仕方は、どこで覚えたんだ」


「まえのきおくでしゅ。まいにちやっていましゅた」


「毎日か」


「うん。かいぎはきらいでしゅたが、やくにたつものでしゅ」


「……嫌いだったのに、役に立てたのか」


「はい。まえのしごとでおそわりましゅた。こまったときは、じょうほうをせいりして、やくわりをきめて、もくひょうをあわせる。そうすれば、なんとかなりましゅ」


 お父様が少し笑った。


「……そうだな。なんとかなる気がしてきた」


「でしゅよね」


 ルードが立ち上がりながら言った。


「俺は情報収集に行ってくる。フィア、追加の議題があったら言え」


「うん、ありがとうでしゅ」


「次の会議は、いつにするんだ」


「ちょうさの一しゅうかんまえでしゅ。かくにんのかいぎをしましゅ」


「了解だ」


 ジルも立ち上がった。


「では、明日の練習の準備をしてきます」


「うん、おねがいしましゅ」


「猫の制御、一緒に考えましょう」


「はい、よろしくおねがいしましゅ」


 二人が出ていった。


 部屋にお父様とわたしだけが残った。


「お父様」


「なんだ」


「きょうのかいぎ、だいじょうぶでしゅたか」


「ああ、よかった。……少し笑ってしまったが」


「わらっていいでしゅ。かいぎは、わらえるくらいのほうがうまくいきましゅ」


「そうか」


「はい。まえのしごとでそうおそわりましゅた」


 お父様がわたしの頭を撫でた。


「……フィアは、どんな仕事をしていたんだ、前世で」


「しすてむかんりしゃでしゅ。こわれたものをなおす、しごとでしゅ」


「壊れたものを直す」


「うん。こわれているものをみつけて、げんいんをしらべて、なおしましゅ。そのくりかえしでしゅ」


「……今も、同じことをしているな」


「そうでしゅね」


 わたしは窓の外を見た。


 庭の花が、穏やかに揺れていた。


 (今回の案件も、きっと直せる)


 根拠はない。でも、チームがある。やり方がある。


 前世で学んだ全部を使って、この家族を守る。


 それが、今のわたしのしごとだ。

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