表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

第十七話 ジルが全部話してくれました

 その日は、朝から雨だった。


 外に出られない。字の練習も昨夜やった。魔力の練習はジルが来るまで一人ではできない。


 わたしはベッドの上で、今まで集めた情報を整理していた。


 (現状把握の最終確認だ)


 判明していること。フィアの魔力はヴェルター家歴代最大。感情と連動して放出される。王家の魔力調査官が定期的に来ている。二百年前に同様の例があり、その子は連れ去られた。鍵のかかった本にフィアに関する記録がある。


 まだ不明なこと。その本の具体的な内容。王家がどこまで把握しているか。今後の具体的な対処法。


 (不明な部分を埋めるために、何が必要か)


 一番の情報源は、鍵のかかった本だ。でもまだ読めない。


 次の情報源は、ジルだ。ジルは全部を知っている。


 (今日、もう一段階、情報開示を申請してみよう)


 タイミングは今日でいい。雨で外に出られず、お父様もルードも在宅で落ち着いている日だ。全員が揃っている日に申請した方が、後で確認が取りやすい。


 わたしはジルを呼んだ。


「ジル、今日はいくつかきいていいでしゅか」


「……どのくらいですか」


「ぜんぶ、でしゅ」


 ジルが少し固まった。


「ぜんぶ、というのは」


「わかっていることは、ほとんどわかっていましゅ。でも、まだわからないことがありましゅ。ぜんぶきいてもいいでしゅか」


「……旦那様に確認してもよいですか」


「うん、おねがいしましゅ」


 ジルが部屋を出た。


 わたしは待った。


 十分ほどして、ジルが戻ってきた。お父様も一緒だった。


「フィア、全部聞くのか」


「うん」


「怖くないか」


「こわくないでしゅ。しらないほうが、こわいでしゅ」


 お父様がしばらくわたしを見てから、椅子を引いた。


「……分かった。聞こうか」


 ルードも来た。四人が部屋に揃った。


 ジルが話し始めた。


「フィア様の魔力は、この国の歴史上でも最大クラスです。正確には、測定ができないほど大きい」


「はかれないでしゅか」


「魔力測定石は、一定以上の魔力に触れると飽和して、正確な数値が出なくなります。フィア様の魔力は、生まれた日から飽和していました」


「そうでしゅか」


「王家の調査官が来る理由は、以前から魔力の異常な集中をこの地域で感知しているからです。源がどこかは、まだ特定できていないようです。でも、近づいてきています」


「あのむらさきのろーぶのひとが、わたしのへやのまえでとまりましゅた」


「はい。グレンドル翁は国内最高の鑑定師です。あの方がフィア様を直接鑑定すれば、特定されます」


「だから、わたしをかくしていましゅ」


「そうです」


 わたしはノートに書き込みながら聞いた。


「もしみつかったら、どうなりましゅか」


 ジルが少し間を置いた。


「……王家はフィア様の引き渡しを求めてくると思われます。拒否すれば、ヴェルター家に圧力がかかります」


「お父様が、たいへんになりましゅか」


「はい」


「フィアが、いくほうが、おとうさまはらくでしゅか」


 部屋が少し静かになった。


「フィア」


 お父様が言った。


「うん」


「それは考えなくていい」


「でも」


「渡さない。それだけだ」


「お父様がたいへんになりましゅ」


「なっても渡さない」


 わたしはお父様を見た。


 真剣な目だった。迷いがない。


「……わかりましゅ」


 ジルが続けた。


「対処法は、三つあります。一つ目は、フィア様が完全に魔力を制御できるようになること。漏れ出なければ、感知されにくくなります。二つ目は、ヴェルター家が王家に対して交渉できる立場を持つこと。これは旦那様が進めていらっしゃいます。三つ目は、時間を稼ぐこと。フィア様が成長して、自分で判断できる年齢になれば、状況が変わります」


「みっつがそろえば、だいじょうぶでしゅか」


「一つずつ進めていけば、必ずなんとかなると思っています」


「わかりましゅ」


 わたしはノートを閉じた。


「ジル、ありがとうでしゅ」


「……いいのですか、これで」


「うん。わかりましゅた。なにをすればいいか」


「何をするつもりですか」


「れんしゅうをもっとがんばりましゅ。それと、じのべんきょうをがんばりましゅ。あとは、お父様を心配させないようにしましゅ」


 ルードが小さく笑った。


「最後のは、無理じゃないか」


「がんばりましゅ」


「そうか。じゃあ俺も手伝う」


「うん、おねがいしましゅ」


 お父様が言った。


「フィア、もう一つだけ話す」


「うん」


「あの鍵のかかった本は、今日開けようと思う」


 わたしは少し驚いた。


「いいでしゅか」


「フィアが全部聞いたなら、読む権利がある。今日、一緒に読もう」


「うん」


 四人で図書室に向かった。


 お父様が棚の奥から鍵のかかった本を取り出した。懐から小さな鍵を取り出して、留め具を開けた。


 本が開いた。


 最初のページに、手書きの文字があった。


「ヴェルター家 魔力記録 代々の当主が記す」


 次のページをめくった。


 古い記録が続く。歴代の当主の名前と、その子の魔力の記録。


 最後のページに来た。


 お父様の字だった。


「フィア・フォン・ヴェルター 生誕日 魔力:測定不能。この子を守ることを、この家の全員で誓う」


 わたしはその文字を見た。


 前世でシステムの仕様書を読んできた。大事な書類を読んできた。でもこれほど短くて、重い文章は読んだことがない。


「お父様」


「うん」


「ありがとうでしゅ」


「礼を言うのはこちらだ」


 ルードがそっと言った。


「俺も書いていいか、父上」


「構わない」


 ルードがペンを取って、お父様の文字の下に書いた。


「兄として、必ずそばにいる。ルード」


 ジルも書いた。


「執事として、最後まで守ります。ジル」


 お父様がわたしを見た。


「フィアも書くか」


「かいていいでしゅか」


「ああ」


 わたしはペンを受け取った。


 三歳の字は不格好だ。でも、練習してきた字で、書いた。


「いっしょにがんばりましゅ。フィア」


 四人の名前が、最後のページに並んだ。


 わたしはその頁を見た。


 (これが、このプロジェクトのメンバーリストだ)


 前世でも、大事なプロジェクトは最初にメンバーを確認した。


 今回のメンバーは、お父様、お兄様、ジル、そしてわたし。


 (四人なら、なんとかなる)


 根拠はない。でも、そう思えた。


 雨の音がしていた。


 でも部屋の中は、温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ