スカイオクトパス
俺が向かうのは海龍討伐でも赴いた、王都の南にある港町ウォルテッド。
海龍が討伐されてからは今まで通りの活気を取り戻し、王都に匹敵するレベルでの賑わいを見せている。
「へいらっしゃい! 安くて旨いシザーススネークの丸焼き、今なら一本銅貨五十枚だぞ!」
「こっちではディシブドルフィンの生ハムが食べられるよ!」
露店では様々な思わず足を止めてしまいたくなるような食べ物やアイテムが沢山売られている。
とりあえず腹も減ったし、情報収集も兼ねて何か買ってくか。
「すまん、そこのシザーススネークの丸焼きを一つ」
「あいよ! ...って、お客さんもしかして王――」
「シッ...静かに。俺がここに居る事がバレたらマズイ。それに、俺は今日は冒険者としてここに来た訳ではないんだ」
「な...! まさか国家を揺るがすような大事件の調査に...?」
「いや、おおれがここに居る事がバレたらマズイって一回言ってみたかっただけだ。まあ冒険者としてじゃなくて只の消費者として来たから後半はあながち間違いじゃないかもな。驚かせてすまない」
「いえいえお気になさらず! ...王子様って結構茶目っ気があるんですね...」
苦笑いを浮かべる露店の店主からシザーススネークを貰い受ける。
シザーススネークは顎がハサミの様になっているだけで名前を付けられてしまった哀れなウミヘビだ。
ハサミに似ている以外は肉がそこそこ美味しい、くらいしか特徴がない。
一応モンスターではあるが、あんまり強くも無いし...本当に食用って感じだ。
シザーススネークの丸焼きを齧りながら、また店主に話しかける。
「あ、そうだ。スカイオクトパスってモンスターいたよな? アレが欲しいんだが、どこで売ってるか知らないか?」
「スカイオクトパスって、あの浮くアレですか?」
読んで字の如く、空飛ぶタコである。
普段は水中に居るが、自身の近くを何かが通ると水から飛び出し、浮きながら攻撃を仕掛けて来る。
そんなスカイオクトパス、実は飛び方が少し特殊なのだ。
まるで風船のような体に空気を詰めて空を飛ぶ。
空気を取り込んで風船っぽくなるだけで空が飛べるくらいにスカイオクトパスは軽いのだろう。
そんなスカイオクトパス、死骸になってもその皮膚は風船のように使う事が出来るらしい。
つまりだ...もしかしたら気球船が作れるかもしれないのだ。
魔法に頼らず空を飛ぶ技術は未だ何処でも開発されたことはない。
流石にヘリコプターや飛行機と比べると飛行能力は劣ってしまうだろうが、誰でも空を飛べるとなると一気にアルカディアは発展するだろう。
そんな感じで思いつきを形にするべくここまで来たのだが...。
「すみませんがスカイオクトパスが売られているなんて聞いたこともありません...素材としての価値が余り高くない事から冒険者達は依頼でもされない限り死骸を持って帰る事はないらしいです」
「そうか...」
「お役に立てず申し訳ありません...」
「いや、良いんだ。それに...」
「それに?」
「売られてないなら自分で取りに行けば良いじゃないか」
と言う事でやって来たのはウォルテッドに面する大きな大きな海!
海の向こうには別の大陸があるらしいが、そこまで行ってみたいとはあまり思わない。
正直どんなに優れた王でもこの大陸全土を統一する事すら叶わないだろう。
でかいアルヴェルに勇者の居るアルカディア、聖女と竜騎士の居るオルフェウス。
そして、不可山脈の向こう側にあるとされる魔族の地。
一代で全部制覇は無理だろうな。
話が逸れたが...。
スカイオクトパスは自身の近くを何かが通った時にだけ姿を現す。
魔力感知では海中にはモンスターが多すぎてどれがどれなのか全く分からない。
となれば地道に水面スッレスレを飛行してスカイオクトパスが出て来るのを待つしかないのだが...。
「全然出てこない...」
狩りを初めて数時間。
今だスカイオクトパスの姿すら見る事は叶わなかった。
たまにトビウオっぽいモンスターが飛んできてうざったらしいから魔法でぶっ倒したくらいしかモンスターと遭遇していない。
「どうしたものか...」
スカイオクトパスは何かが自身の近くを通った時に反応して出て来るんだったか。
それが魔力感知等ではなく、ただ単に水の振動を感じ取って反応しているのかもしれない。
それならずっと水面ギリギリに居たのにスカイオクトパスが出てこなかった事に説明が付く。
なんてったって俺は水に一回も触れてないからだ。当然、振動が起こらないなら、仮設ではあるが振動を感じ取る事でしか敵の存在に気づけないスカイオクトパスが出てこない訳だ。
仮説を確かめるには大きな振動を起こせばいいのだろうが...魔法でも使ってみたら別のモンスターにも被害が出るかもしれないからな。
水中のモンスターを無暗に狩ることは、ウォルテッドの冒険者達の首を絞めるのと同義だ。
だとしたら...少々面倒だが、作ってみるか。
うお
やっと十万文字か




