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神様(かみ)じゃなくて紙幣(かみ)をくれ!  作者: 余白 ことの


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第三話 旧校舎の出席確認


「八重垣さん、今日の放課後って何か予定ある?」


 六時間目の授業が終わり、教室が少しずつ騒がしくなり始めた頃だった。


 鞄に教科書をしまっていた桜は、隣から声をかけられて顔を上げた。


「ううん。特にはないけど、どうしたの?」

「昨日、部活を見てみたいって言ってたでしょ? よかったら一緒に回らない?」

「あ、うん! ぜひお願いしたいな」


 桜がそう答えると、声をかけてきた女子生徒は嬉しそうに笑った。


 ところが。


「あっ、そうだ。今日、委員会だった!」

「え?」

「ごめん! すっかり忘れてた!」


 女子生徒は慌てて鞄から手帳を取り出した。 


「うわ、しかも今週の当番、私だ……」

「それなら、そっちを優先して。私は大丈夫だから」

「でも、誘ったの私なのに……」

「気にしないで。また今度、一緒に回ろう?」


 桜が笑うと、女子生徒は申し訳なさそうに手を合わせた。

「本当にごめん! 明日なら空いてるから!」

「うん。ありがとう」



 そのやり取りを聞いていた別の女子生徒が、ひょいと顔を出した。


「八重垣さん、部活見学するの?」

「うん。まだどんな部活があるのか、よく分からなくて」

「そっか。うち、結構種類多いもんね。普通の部活もあるし、契約者向けの実習系もあるし」

「そうなんだ」

「私はこれから部活だから案内できないけど……あ、千穂!」


 女子生徒が教室の後ろへ声をかけた。


「何?」

 振り返ったのは、髪をひとつにまとめた女子生徒だった。

 机の上には教科書と、畳まれた部活動用の道着袋が置かれている。


「千穂、今日って剣道部?」

「そうだけど」

「八重垣さんが部活見学したいんだって。剣道場まで案内してあげられない?」

「剣道場までならいいわよ。私も行くところだし」


 千穂はそう答えると、桜の方へ向き直った。


「鈴木千穂(すずき ちほ)。

昨日も少し話したけど、ちゃんと自己紹介してなかったわよね」

「八重垣桜です。よろしくね、鈴木さん」

「千穂でいいわよ。同じクラスなんだし」

「じゃあ、千穂ちゃん。ありがとう」

「どういたしまして」


 千穂は道着袋を肩にかけた。


「でも、私も部活があるから、ずっと付き添うのは無理よ?」

「うん。剣道場まで教えてもらえるだけでも助かるよ」

「なら決まりね」


 そこへ、近くの席で本を読んでいた女子生徒が、ぱたんと本を閉じた。


「千穂ちゃん、私も途中まで一緒に行こうかな」

「あれ、月乃。古代史(こだいし)部は?」

「あるよ。でも、部室に行く前に図書館へ寄りたいから」


 月乃と呼ばれた少女は、机の上の本を鞄へしまった。

 長い髪を二つのおさげにした、穏やかな雰囲気の少女だった。


「日向月乃(ひなた つきの)です。

よろしくね、八重垣さん」

「よろしくね、日向さん」

「私も月乃でいいよ」


 月乃はにこりと笑った。


「瑞穂学園、広いからね。最初は迷うと思う」

「実は昨日も、教室に戻る道を間違えちゃって……」

「ああ、分かる。東棟と西棟、似てるもんね」

「月乃は入学した頃、三回も迷子になってたわよね」

「四回だよ」

「増えた!?」

「一回は誰にも見つからなかったから」


 月乃が何でもないことのように言うと、千穂は額に手を当てた。


「……あんたねぇ」


 桜は思わず笑ってしまった。

 どうやら、この二人は仲がいいらしい。



「それじゃ、行こっか」


 千穂が教室の扉へ向かう。


 桜も鞄を持ち、月乃と一緒にその後を追った。

 廊下へ出ると、ちょうど向こうから大きな声が聞こえてきた。


「だから! 今日こそ絶対に間に合わせるって!」

「昨日も同じこと言ってたよ、優」

「昨日は昨日! 今日は今日!」

 優といなりだった。

 優は竹刀袋を肩にかけ、いなりと何やら言い合っている。

 その少し後ろには亮太もいた。


「優、そろそろ行かねぇと部活遅れるぞ」

「分かってるって! いなりが余計なこと言うから!」

「僕は宿題の話をしただけなんだけど」

「それが余計なんだよ!」


「宿題は余計じゃないでしょ!」


 千穂がすかさず口を挟んだ。

 優がぎくりと肩を揺らす。


「……千穂」

「今日の英語、ちゃんと出したの?」

「…………」

「優?」

「……明日には」

「今日が締め切りでしょうが!」

「分かってる! 分かってるから!」


 優は逃げるように歩き出した。


「俺、部活あるから! じゃあな!」

「あっ、こら! 話はまだ――」


「千穂ちゃんも部活遅れちゃうよ」


 月乃に言われ、千穂は口を閉じた。


「……もう。ほんっと、あいつは」


 その隣で、桜が小さく笑っていた。


「八坂くん、今日も元気だね」

「元気だけが取り柄みたいなものよ」

「千穂、ひどくね!?」


 少し離れた場所から、優の抗議が飛んできた。

 千穂は聞こえなかったふりをした。

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