第8話 学校祭〜書道パフォーマンス②
井尾玲は、書き上げた紙を吊ろうとして、天井から吊り下げたバーを下ろします。
部員が一人の書道部。皆で紙を持ち上げるたり、展示の準備を分担したりすることはできません。全て、井尾玲一人で行います。
ゆっくりとバーを下ろしていきます。しかし、バーは途中で、うんともすんとも動かなくなってしまいました。
「あ、あれっ!?」
どこかに引っかかってしまったのでしょう。井尾玲は、ロープを引いたり離したりしましたが、バーは動きません。
顧問の美濃田先生が、手伝おうと立ち上がります。
空玲須は、どこが引っかかっているのかと天井を見上げました。あ、あの、「ばすけのごーる」。板が傾いてて、それが引っかかっているんだなあ。
…板が、傾いている?
空玲須は前の観客を押し退けて、井尾玲の方へ進んでいきます。
美濃田先生が、ロープを引きます。
「ぬん!」
あっさりロープは引かれて、コレでバーが…。
「井尾玲ッ!」
空玲須は飛び出しました。
井尾玲と先生の頭上。バスケットゴールが落下してきます。空玲須の声で、井尾玲もそれに気がつきました。でも、わたしが避けたら、作品が…。先生も…
ドゴーン!
気がつくと、バスケットゴールは井尾玲に当たらず、遠くステージの下へと落下しました。
「いい飛び蹴りだ!」
必歩流帝の拍手。観客にも、徐々に状況が理解されてきました。
「空玲須くん…。」
井尾玲は振り向きます。
「んと、足跡つけるとまずいかな、って思ったから、蹴り飛ばした…。」
井尾玲は立ち上がって、空玲須の手を握りました。
「ありがとう。本当にありがとう。」
その瞳は、少し潤んで見えました。
会場が拍手に包まれました。
「あ、あれ!?
まだ、作品見せてないんだけどな…。」
困惑する井尾玲。
「行こう!」
出井亜寧羅の言葉に、女鹿蘭は立ち上がりました。
「…わらわは、この学校のものではないからの。今回はここで見ておくことにしようぞ。」
脚を組んだままの尾牟派麗子を、必歩流帝が抱え上げます。
四人は、観客をかき分け、井尾玲の元へ。
井尾玲と空玲須、美濃田先生は、紙を持ち上げて観客に見せようとしましたが、持ち手と持ち手の間がたわんでしまいます。紙が破れる恐れがあるので、あまり強く引くわけにもいきません。
「あと、何人か…。
あ!」
井尾玲の目の前に、元気に手を振る出井亜寧羅!
「やっほー!
持つ持つ!わたしも。」
「わたしも手伝ってもいい?」
「出井亜寧羅。女鹿蘭さん。
必歩流帝。尾牟派麗子さんまで。
…ありがとう、みなさん。
では、改めて。
手伝っていただけますか。」
四人は声を揃えて言いました。
「もちろん!」
「みなさん、いいですか?
せーの、で持ち上げてください。
…
せーの!」
作品を持ち上げたまま、ステージへ運んで、いよいよ、紙が起こされます。
そこには、紙全体に広がる一文字。
「祭」
激しく、しかし楽しげに、弾むように、文字が躍動しています。
会場は、再び拍手に包まれました。
美濃田先生がマイクで呼びかけます。
「あのー、せっかくですから、みんなで記念撮影でもやりましょう。
ご希望の方はステージ前…うわっ!」
アナウンスが終わる前に、ステージ前は人だかりです。
「みんな、ありがとう。
…わたし、さっきから、ありがとうしか言えてないけど。
でも、本当にありがとう。
おかげで、作品は完成しました。
…みんなで作った作品です。」
井尾玲の瞳に、キラリと光るものが見えました。




