第61話 最終話-f 平来編〜推し活の果て
空玲須は、席を立ちました。
「ちょっと、行ってくるよ。
みんな、今日はありがとう。
また、明日。」
笑顔でお礼を言って、男子たちの方へ向かいます。
空玲須は、「ゲーム」エリアへ来ました。
「おお〜。ボスカメ城!」
「ブロック叩いて…。あれ?
何にもならないぞ?」
「課金アイテムないと音とか鳴らない、って書き込みある。」
「ぐえ〜、金の亡者!
これ以上使うと、彼女と会う時、足りなくなる…。」
テンションが上がる男子たちの横で、空玲須は辺りを見回します。
「ボスカメ城」…。
空玲須はゲームを知らないので、感慨はありませんが、立方体で構成された建物は珍しいし、色も綺麗だと思っていました。
「!?」
いる…。
空玲須は、見つけました。
向こうのブロックの陰にいる、平来。
視線に気がついて、目を逸らします。
空玲須は、男子たちとアトラクションの入り口に来ました。
「ぐえ〜、何という人数〜。」
男子の一人が叫びます。アトラクションの最後尾は、入り口のはるか彼方…。さっき歩いたところまで続いています。
「これは、諦めるしかないな。」
すると、長蛇の列の入り口の隣のゲートに笑いながら入っていく家族連れが。
「エクスプレスパスがあると、指定された時間に乗れるらしい。」
また、スマホを見た男子がいいます。
「ぐえ〜、守銭奴!
いくらむしり取れば気が済むんだぁ〜!」
男子たちの魂が叫び声を上げます…。
「!?」
…ここにも。
空玲須は見つけました。
列の向こうの木の陰に、平来。
見つかったことを悟って、その場から去ります。
空玲須と男子たちはアトラクションを諦め、ショップに来ました。
「おお!
クッシー。
ぬいぐるみ、いいな。…でも高えな…。」
男子たちがアイテムを物色する横で、またしても空玲須は見つけてしまいました。
…平来。
空玲須は、見ていないふりをして男子たちに言いました。
「オレ、ちょっと色々見てくるから。
先に行ってていいよ。」
男子たちの返事を聞かずに、空玲須はショップを出ます。
出口を出て、すぐに隠れます。きっと、平来は追いかけてくるに違いない。そしたら…。
「なぜ、一人になった?」
いつの間にか、隣にいた平来に声をかけられ、空玲須は、心臓が飛び出しかけました。
「へ、平来?
ショップの中にいたでしょ?」
平来は、フッと笑います。
空玲須はその顔を見て、思い出しました。
…平来はいつも、こんな感じ。突然隣に現れる。どこにいるとか関係なく。
「まあ、いいか。
それより、オレ、平来に言わなきゃいけないことがあるんだ。」
平来は、いつも半目の瞳を大きく見開きました。
「な、何!?」
「えっと、その。
ごめんなさい。」
平来は、少し黙った後、言いました。
「…。
何が?」
空玲須は、ドギマギしながら答えます。
「えっと、やっぱり言わなきゃならないか…。
んと、あの。
ボタン外して、手を入れかけたこと…。」
巨大な平来パンチが空玲須の頭上から振り下ろされます。
「バカ!
あんなこと、忘れとけ!」
地面に倒れ伏した空玲須に、平来は言い捨てました。
「全く。
…少し期待したのに。」
そのまま歩き去ろうとする平来に、空玲須が声をかけます。
「ごめんなさい。それと、ありがとう。
平来。」
「ありがとう?
何が?
前のことなら、お礼はもう言われたが?」
平来が立ち止まります。
「うーん。
オレにも詳しくわからないんだけど、何というのか…。
ずっと、見守ってくれてただろ?多分。」
平来が、振り返りました。
「すっごく昔から、オレのことを守って、助けてくれてた人がいて、なんとなくそれが、平来なんだなって。」
空玲須の言葉に笑顔を返す平来。それは、いつもの黒い塩対応のものではなく、煌めく春の日差しのような鮮やかで明るい微笑みでした。
「クレス。
お前は、わからなくていい。
わかってしまったら、ワタクシのこの気持ちは、罪になってしまうから。
そう。
今のワタクシは、平来。
主神の妻でも、正妻の守り神でもない。
ただの不思議な女子高生だから。
それゆえに、こんなことも、できる。」
平来は、驚く空玲須の胸に顔をうずめました。おずおずと、平来の背中に手を置く空玲須。
緩やかに時が流れます。
「うん。
よかった。
…満足した。」
平来が、空玲須から離れました。
「平来。
またちょっと、思い出したけど、秘密にしとく。」
空玲須は、平来の顔を見つめて微笑みながら言いました。
「父さんを怒る資格がなくなるからな。」
…。
DOGOOOOOON!!
夜空に流星が煌き、そして平来の足元に落ちました。
「秘密になってないだろ!」
平来は腕組みをして、地面に伏した空玲須を見下ろしました。
修学旅行は、終わりました。
空玲須と、平来の青春は、このひとときのみ。
二人の青春が、始まることはありません。
それでは、次話。
本当の最終話へ。




