第58話 最終話-c 出井亜寧羅編〜罰
空玲須は、席を立ちました。
「ちょっと、行ってくるよ。
みんな、今日はありがとう。
また、明日。」
笑顔でお礼を言って、男子たちの方へ向かいます。
「わ、わたしもそろそろ行こうかなあ。
えへへ。」
出井亜寧羅も、慌てて立ち上がります。
「…うん。じゃあ、わたしもそろそろ。」
「ウチも。」
「よし。ここはしまいとしようぞ。
一旦、解散じゃ。」
尾牟派麗子の一声で、みんな席を立ちます。出井亜寧羅は、女子の友達のところへ向かいました。
「あら?
出井亜寧羅。空玲須とはダメだった?」
「えへへ。
鋭いなあ…。はあ。
逃げられちゃった。
みんないたし、言い出せなかった…。」
女子の一人が、遠くを指差します。
「あ、あそこ。まだいるよ?
今なら間に合う。クイーンもマドンナもプリンセスもいない。」
「がんばれ!」
「行け〜!」
女子たちの応援を受けて、俄然、出井亜寧羅はやる気を取り戻しました。
「みんな〜、ありがとう!」
出井亜寧羅は女子たちに手を振って、空玲須に突撃です。
男子たちと、くっちゃべりながら歩く空玲須。背後から、高速で接近してくる者があります。
「空玲須く〜ん!」
振り向くと、ぶんぶん手を振りながら走ってくる出井亜寧羅。
「やっと追いついた。どこ行くの?
わたしも行っていい?」
出井亜寧羅の矢継ぎ早の質問。男子たちは、ふぅ、とため息をつきました。
「またしても、うらやましい。」
「いいよ、空玲須。
俺たちは、一人モン同士、親交を深めるから。」
「一緒に行ってきな。」
男子たちはそう言うと、空玲須を残してどんどん先へ行ってしまいました。
出井亜寧羅に引っ張られて、空玲須は人気の「ゲーム」エリアにやってきました。
目がまわるほどの人の多さ。アトラクションを待つ人たちも長蛇の列です。
「あちゃー、やっぱりエクスプレスパスないと無理っぽい…。」
出井亜寧羅は、少し残念そうです。
「せっかく来たから、お土産、買ってもいいかな?」
空玲須が誘いました。出井亜寧羅は、目を光らせて、赤べこのように何度もうなずきます。
「よーし。買い物でうっぷん晴らしだ〜!」
…ショップも、黒山の人だかりでした。
出井亜寧羅は、人をかき分けて、何とかグッズコーナーに侵入。
「カワイイ〜。え〜何コレ。
こっちの方がいいかな?」
ゲームのキャラクターのぬいぐるみやカチューシャ、キーホルダー…。出井亜寧羅は、空玲須に次々と見せて、カワイイ、カワイイと連呼します。
「本当だ。可愛いね。」
空玲須は、そう返します。
可愛いな…。出井亜寧羅が振り向くたびに、空玲須は思いました。
ショップを出ると、辺りはすっかり暗くなっていました。
「ゲーム」エリアの出口に向かう二人。
頭には、並んで買った白いオバケのカチューシャ。乗り気でない空玲須に、出井亜寧羅は強制的に付けさせました。お揃いです。出井亜寧羅は、るんるんです。
周りの人たちは皆、同じ方へと向かっていきます。
「パレードの時間だよ。行こ!」
出井亜寧羅が、空玲須の腕を引っ張ります。
パレードのコースは、すでに人で満ちていました。出井亜寧羅と空玲須は、パレードが見えそうな場所を探して移動します。
やっと、少し見える場所にたどり着いた二人。出井亜寧羅が向こうを指差します。
「あ!来た来た。」
音楽と、踊る人々が近づいてきます。しかし。
ノリはいいが、何だか怖い音楽。よく見ると踊っているのも、人ではない動きをしているような。
空玲須は、身構えました。あれが「怪化」だとしたら。出井亜寧羅の顔を見つめます。
「な、何…?」
出井亜寧羅は、空玲須に突然見つめられてドギマギしました。心臓が高鳴ります。頬が赤くなるのが自分でもわかりました。まさか、コレって…。
「オレが、守るから。」
空玲須の言葉に、出井亜寧羅の心は舞い上がりました。何コレ、告白!?キャーッ!
…ん?「守る」?
って何から?
空玲須の顔を見る出井亜寧羅。空玲須は、ゾンビの格好をしたダンサーたちから目を離しません。まさか、本物の化け物だと思ってるんじゃ…。
「く、空玲須くん。パレードよりさ、何か乗ろうよ。」
このままだと、マジで戦ってしまいそうだ。出井亜寧羅はそう思い、空玲須をアトラクションへ引っ張りました。
「ラッキー。すいてる。
みんなパレード見てるから、今来て正解だったね。」
宇宙船のアトラクション。出井亜寧羅の言う通り、並んでいる人は多くありません。すぐに順番が回ってきました。
先に並んで座る二人。安全ベルトをつけて、出発です。
「んな!」
空玲須は、目を見張りました。
…夜空の中を進んでいきます。星の横を進み、暗い空間へ吸い込まれるような感覚。
「すごいな…。」
そうつぶやいて、隣に座る出井亜寧羅を見ました。出井亜寧羅も、空玲須を見ました。
「手、繋いでもいい?」
ヒソヒソ声で、出井亜寧羅が聞きます。空玲須は、そっと出井亜寧羅の小さな手を握りました。
出井亜寧羅は、まだ何か言いたそうに空玲須を見つめています。その顔を、星の光が青白く照らしました。
空玲須は、出井亜寧羅の耳に顔を寄せて、囁きました。
「出井亜寧羅。
好きだよ。」
出井亜寧羅は、ギュッと空玲須の手を握り返しました。
街灯の下を歩く二人。
「わたしね。
さっき、本当はチューしたいな、って思ったの。」
空玲須の胸に愛の矢が突き刺さりました。
「な、なんて…。」
出井亜寧羅は、焦る空玲須を見て笑いながら言いました。
「でもね。
知恵袋の『アトラクションでキスするなんて、迷惑だ』って回答を思い出して。
やめたんだ。」
出井亜寧羅が、くるりと背中を向けます。
「やめたのに。
ずるいよ、アレは。
不意打ち。」
「ごめん。」
謝る空玲須に、出井亜寧羅が言いました。
「ずるい人には、罰を与えま〜す。
その、罰とは!」
そこまで言って、出井亜寧羅は空玲須の方に向き直りました。そして。
小さな声、少し震える声で。
「…チュー、するのだ!」
キス待ち。
空玲須は、出井亜寧羅を抱きしめました。
少し強引に、顔を寄せて。
「ん…。」
重なる二人の唇。
抱きしめ合う腕が絡まります。
お互いの気持ちと鼓動を確かめ合います。
しばしの時間が過ぎて。
二人は歩きはじめます。
「えへへ。」
出井亜寧羅が空玲須の顔を見上げます。
空玲須は、少し照れながら、その目を見返します。
互いの指と指を間に挟んで、二人の手はしっかりと繋がれています。
「そういえば、わたし、言ってなかったね。」
「何を?」
出井亜寧羅が立ち止まりました。そして…。
「わたしも、空玲須くんが、好き!」
街灯の下、二人はまた、強く抱きしめ合いました。
修学旅行は、終わりました。
けれど、空玲須と、出井亜寧羅。
二人の青春は、今、ここから始まるのです。
「青春ヘラクレス2」完




