第57話 最終話-b 必歩流帝編〜伝えあう二人
空玲須は、席を立ちました。
「ちょっと、行ってくるよ。
みんな、今日はありがとう。
また、明日。」
笑顔でお礼を言って、男子たちの方へ向かいます。
必歩流帝も、席を立ちます。
「ウチも、ぷらっとしてくるよ。
みんな、今日は大変だったな。
…じゃ、また明日。」
さりげなく、空玲須の横に並びました。
「あれ?必歩流帝も一緒に行く?」
「それも、いいかもな。
することないし。」
男子たちは大歓迎です。
「二組のクイーン!」
「おお。尊い。」
そう言って土下座します。
「おう、下から覗くなよ。
シメるぞ。」
必歩流帝は男子たちを見下しながら笑います。本人はイタズラっぽく笑ったつもりですが、かなり怖い…。
そして、空玲須と必歩流帝、男子たちは、話題の「ゲーム」エリアに向かいました。
空玲須と必歩流帝は男子たちと、「ゲーム」エリアで楽しもうとしましたが、とにかく人、人。話題のエリアだけあって、アトラクションに乗るだけでも大行列。
高身長の必歩流帝。その容姿も相まって、道行く人々は彼女を振り返ります。
「んー、なんかいちいち見られんの、いい気はしないな。」
必歩流帝のつぶやきを聞いた空玲須は、男子たちに言いました。
「オレ、ちょっと別のところに行くよ。」
男子の一人が、ゲスな顔をして言いました。
「お、いいなあ。
いよいよクイーンと…。」
男子の背後に黒い闘気を纏った必歩流帝。殺気を感じて、男子は言葉に詰まります。
「行こう、必歩流帝。」
空玲須は、必歩流帝の手を引いて走り出しました。
「どこ行くんだよ。」
しばらく走った後、必歩流帝が聞きました。
「うーん。
…考えてなかった。」
必歩流帝は、そっと空玲須の手を払います。
「どっか、見たいとこないのかよ?
乗りたいものとか。」
辺りは暗くなり始め、人々がどこかへ向かって集まり始めています。
「何かあるのかな。
みんな、あっちに行ってる。」
必歩流帝は、人の流れを見つめています。
会話が途切れます。
「とりあえず、歩こう。」
空玲須がそう言ったとき、必歩流帝が真面目な顔で言いました。
「空玲須。
話したいことがある。」
サメのエリアのテーブルに二人で座ります。
買ったドリンクを、テーブルに置いて。
「また、変な単位のお釣りをもらった。」
空玲須は、必歩流帝に言いました。
「で、何、話って?」
必歩流帝は、プイッと横を向いてしまいました。
「何かこう…。
こういうところに座ると、言いづらいな。」
ドリンクを口に運びます。
「立ってた方がよかった?
だったら、歩こう。」
席を立つ空玲須を、必歩流帝は止めました。
「そうじゃなくて、勢いっての?
何かほら、ガーッって。『言いたい』ってなる時があんだよ。」
「何を?」
「何を…って、そりゃ。
ねぇ。」
必歩流帝は、またそっぽを向いてしまいました。
日が完全に暮れて、辺りは真っ暗になりました。遠くで音楽が聞こえます。
「そっか、みんなパレードを見に行ってたんだな。」
人通りはますます少なくなり、座っているのは空玲須たちだけになりました。
必歩流帝が、深く息を吸いました。空玲須に向き直って、瞳を見つめます。
「よし。
言う。」
「うん。
聞く。」
必歩流帝は、ふうーっと息を吐き出し、そしてまた深く吸いました。
「空玲須。ウチは。」
また、ふうーっと息を吐きます。
「必歩流帝。
オレも、言おうと思ってたことがある。
先に、言ってもいい?」
必歩流帝は、小さくうなずきました。
「どうぞ…。」
「じゃあ。コホン。
必歩流帝。いろいろとありがとう。」
必歩流帝の肩がビクンとしました。驚いた瞳が空玲須を見つめます。
「それで。
ちょっと、言いづらいなあ。
でも、言うよ。」
空玲須は、必歩流帝の瞳を覗き込んで言いました。
「必…、いや。
礼愛さん。
オレ、あなたが好きです。」
必歩流帝の時間が停止しました。
しばらく後。
返事を待っている空玲須。
必歩流帝は、視線を逸らして言いました。
「必歩流帝、でいい。
その方が慣れてる…。」
「うん。確かに。」
空玲須は微笑みます。
…これが、返事。仕方がない。
フラれたと、そう思ったとき。
「ウチも。
ずっと、好きだったんだ。
ずっと言おうと思ってた…。」
必歩流帝の瞳に、涙が溢れました。
空玲須は、両腕でそっと必歩流帝を包みます。必歩流帝も、それに応えて、空玲須の胸に寄り添いました。
街灯の下、二人の長い影が伸びています。手と手をしっかりと繋いで歩いていきます。
「さっき、ごめん。
思わず…。」
「謝るな。
恥ずかしいなあ、もう。」
必歩流帝が赤くなって、横を向きました。
「ていうか。
何なら別にその先だって…。」
ゴニョゴニョ。必歩流帝の声は小さくなって、空玲須にはよく聞き取れません。
「な、何?」
くるり。必歩流帝は、空玲須に向き直って言いました。
「耳貸して?」
空玲須は、言われた通り身体を低くします。必歩流帝の唇が、空玲須の耳に近づいて。
チュッ。
唇は、耳ではなく、空玲須の頬に。
「何なら、この先だって、していいよって言ったの!」
「必歩流帝!」
空玲須は、両手で必歩流帝の肩を抱いて、唇を重ねました。
「ん…。」
必歩流帝が、背伸びをします。空玲須の唇が押されます。
遠くにパレードの喧騒を聞きながら、二人は、お互いの身体を強く強く抱きしめ合いました。
修学旅行は、終わりました。
けれど、空玲須と、必歩流帝。
二人の青春は、今、ここから始まるのです。
「青春ヘラクレス2」完




