第56話 最終話-a 女鹿蘭編〜重なる想い
空玲須は、席を立ちました。
「ちょっと、行ってくるよ。
みんな、今日はありがとう。
また、明日。」
笑顔でお礼を言って、男子たちの方へ向かいます。
女鹿蘭は素早く周りを見回しました。同じクラスの女子を発見。速やかに席を立ちます。
「じゃあ、わたしもあの子たちと合流しようかな。
また、後で!」
いそいそと、空玲須の後を追います。
「あれ?女鹿蘭も一緒に行く?」
「違うわよ。」
そう言って、女鹿蘭は少し赤くなって目を逸らしました。
「…わたし、『ファンシー』エリアに行くから。
しばらく、いるから。
じゃね。」
空玲須にだけ聞こえるくらいの小声。
「絶対、行くよ。」
空玲須も小声で返しました。
女鹿蘭は、女子たちと合流して、行ってしまいます。空玲須も、男子たちと合流して、話題の「ゲーム」エリアに向かいました。
空玲須は男子たちと、「ゲーム」エリアで楽しもうとしましたが、とにかく人、人。話題のエリアだけあって、アトラクションに乗るだけでも大行列。
何かを楽しむというより、周りの風景を珍しく思う空玲須。そうこうしているうちに、日も傾き、辺りは暗さを増してきました。
「あ、オレ、彼女と約束あるから、行くわ。」
男子の一人がメンバーから抜けます。
「俺らも、別のエリアに行くか。
空玲須は?」
聞かれた空玲須は答えました。
「うん。オレも、別行動するよ。」
「お!
誰、誰よ?
女鹿蘭か!?」
空玲須は、うなずきます。男子たちは額に手を当てて、上を向きました。
「オーノー。
女鹿蘭は、ついに空玲須のものになるのか。残念。」
「でも、がんばれよ!」
謎の応援を受けて、空玲須は「ファンシー」エリアに向かいました。
かわいいキャラクターのぬいぐるみ。キーホルダー。プリントされた缶に入れられたクッキー…。
もう、何周したでしょうか。店を出て、暮れてきた道を一人歩いて、また同じ店に。
女鹿蘭はあの後、女子グループから抜けて待っていました。でも、まだ来ない。
「コナイカモヨー?」
猫のぬいぐるみの手足を動かして、自虐的な声色を出します。
…空しい。
不意に、後ろから肩に手を乗せられました。びっくりして振り向く女鹿蘭。
「来たよ。」
そこには、空玲須の笑顔がありました。
「遅いよ。」
ボソリとつぶやいた女鹿蘭の手を、空玲須が握ります。
「ごめん。」
店を出て、二人で歩きます。女鹿蘭の手には、猫のぬいぐるみ。もう片方の手を空玲須とつないで。
「ファンシー」エリアを抜ける道の途中で、女鹿蘭は立ち止まります。
「あのね。空玲須。」
「何?」
「キマイラになった子の…。
ううん。なんでもない。」
不意に、空玲須は女鹿蘭の瞳を覗き込みました。
「女鹿蘭。オレ、女鹿蘭に伝えようと思ってたことがあるんだ。」
女鹿蘭に緊張が走ります。空玲須の眼を正視できずに、視線を逸らしてしまいました。
「今まで、ホントにありがとう…。」
「今まで!?」
女鹿蘭が大きな声を上げて、手を振り払いました。
「それって。
もう、わたしはいらないってこと?」
空玲須は焦りながら、女鹿蘭の手を握り直します。
「えっと、言い方悪かった。
つまりその…。
感謝してるってこと。
それから。」
再び、空玲須は女鹿蘭の瞳を真っ直ぐ見つめました。
「これからも、一緒にいたい。」
女鹿蘭は下を向きます。
鼓動が高まります。
抑えられない想いといっしょに。
「…。
うん。これからも、よろしく。」
そう言って、女鹿蘭は空玲須の顔を見上げました。少し潤んだ瞳で見つめて、そして。
眼を閉じて、待っています。
空玲須は、女鹿蘭の肩に手をやって。
それから、唇を重ねます。
静かな時間。
やがて、唇は離れて。
「ずっと、好きだったんだよ。
空玲須。」
ぬいぐるみを持ったまま、女鹿蘭の手が空玲須の背中へ。空玲須の両手も、女鹿蘭の背中へ。
「オレも。
好きだよ。女鹿蘭。」
強く、抱きしめ合う二人。
そして。
街灯の下、二人は長い影と共に歩いていきます。その手をしっかりと握ったまま。
「そういえば、こないだのセーターって…。」
「もうちょっとで完成。
…あ、気になる?」
「うん。」
「どうしようかな…。
別の人にあげちゃおうかな…。」
「ええ!
何でさ!?」
「ウソ。
大丈夫。
ちゃんと、空玲須のだよ。」
修学旅行は、終わりました。
けれど、空玲須と、女鹿蘭。
二人の青春は、今、ここから始まるのです。
「青春ヘラクレス2」完




