第53話 修学旅行〜後始末
「出井亜寧羅、大丈夫!?
まさか、怪我した?」
出井亜寧羅は、力無く笑って答えます。
「へへへ。
何ともない。
ちょっと腕が、痛かっただけ…。」
空玲須が、左腕を触ります。
出井亜寧羅の身体がビクンと動きます。ビリビリするのをやっとこさ耐えて、言いました。
「ちっとも。
痛くないよ。」
「多分、折れてる。早く救急車を…。」
女鹿蘭がスマホを出します。
「やめて!」
出井亜寧羅の語気に、みんなが驚きます。
「あ、いや。
ごめん。
だって、ここで救急車呼んだら。
わたしの修学旅行。
終わっちゃう…。」
出井亜寧羅は、下を向きます。アスファルトに、雫がぽたり、ぽたりと跡をつけます。
「待ってて。
あそこの、お城の前で!」
空玲須は、みんなに告げて走り出しました。平来。いつもなら、現れるのに。こんな時に限って来ない。どこにいる?
「呼んだ?」
いつのまにか、平来が空玲須と並走していました。空玲須は急停止。
「あのさ、さっきの、ほら。」
そう言って空玲須は、平来のブラウスのボタンを外し、胸に手を…。
平来パンチ炸裂!
背景に、神々の宮殿、オリンポス山の風景が現れます。BAGOOON!
両手を広げ、彼方に飛んでいく空玲須。
「何を、血迷ってる!」
戻ってきた空玲須を正座させて、平来のお説教が始まりました。
「だって、出井亜寧羅が。」
「人のせいにするか!
このバカ!」
「出井亜寧羅が怪我してて。
あの汁があれば、治るかなって…。」
「汁いうな。
何か汚い感じ。
あと、アレは一度きり。」
空玲須は、ガックリとうなだれました。
「願いは分かった。
…多分、今頃は。
何とかなってる。
と思う。」
そう言って、平来は空玲須の背中を思いっきり平手打ちした。
「早く、行ってやれ。」
よく分からないけど、平来の言うことだから。空玲須は立ち上がりました。振り向くと、平来の姿はもうありません。
「何か、ありがとう。」
小さくそう言って、空玲須はみんなの待つお城の方へ駆けていきました。
お城の前で、出井亜寧羅が元気に手を振っています。
「平米がの。
手で触れただけじゃ。」
出井亜寧羅の腕が治った理由を、尾牟派麗子が短く説明しました。
「それ以上の説明はできぬ。
他には何もしてないからの。」
「治ったら、お腹減ったよ。
みんなは?」
「はい!
お腹減りました。」
井尾玲が手を挙げます。
「ウチも。」
「じゃあ、わたしも。」
必歩流帝と女鹿蘭。そして。
「オレが一番腹減ってるぞ!」
空玲須も、ビシッと手を挙げました。
「とはいえ、この様子じゃと、食事は難しいの。あちこち焦げて。よく消防に通報されなかったものじゃ。」
尾牟派麗子は、黒スーツに何やら告げます。早速、どこかに連絡を取る黒スーツ。
「確かに。これは、ひどい。
弁償モンだ…。」
建物も道も壁も、傾いたりひび割れたり。火炎放射の名残りで焦げているところから、まだ煙も上がっています。
黒スーツが尾牟派麗子に耳打ちしました。
尾牟派麗子が微笑みます。
「ここの修復は、わらわの小遣いで賄うことで話がついた。
それと。」
それと。続きは何でしょう。尾牟派麗子はもったいつけて、話を溜めます。みんな、ドキドキです。
「そこのレストランの厨房は無事だそうだ。
席が屋外でも良いなら食事はできる、と言っておるが?」
「食べまーす!」
みんなの声が揃いました。
湖のそばのお城の屋根から、平米と平来がみんなを見ていました。
「旦那様が、あんなに嬉しそうに…。
お母様。ありがとう。
わたくし、危なくあの笑顔を失うところでした。」
「あなたの判断も、ある意味正しいですわ。
ここは『あなたが作り出した世界』。
現実ではないのですもの。
あの笑顔も、仮のものに過ぎませんわ。」
「たとえ仮でも、笑顔はいいものです。
『青春』ですね。」
「ふふ。
そうですわね。
ワタクシも、楽しませてもらいましたし。」
「旦那様と、チューしていらしたこと?」
「そ、そういうことではありませんわ。
アレは治療ですわ、治療!」
「ふふ、お母様ったら。」




