第52話 修学旅行〜キマイラ⑤
空玲須は、キマイラを見た。
井尾玲が、ほうきを振り続けている。
女鹿蘭が、笛を吹き続けている。
出井亜寧羅は?
腕を押さえて、周りの生徒たちと一緒に離れて見ている。まさか、怪我を…。
「急がなきゃ。」
空玲須は、キマイラの頭上を見た。あの上から…。
キマイラの上に、レールが見える。さっきのアトラクション。
「必歩流帝。一緒に来て。」
うなずく必歩流帝。
アトラクションの乗り場へ走ろうとした二人を、平来が止めた。
「待て。
火除けのマント。」
平来は、瓶の中の液体をマントにかけ、空玲須に投げてよこした。
「ありがとう。
行ってきます。」
空玲須は、鉄柱の先にアルミカップを刺し、アトラクションに乗り込んだ。
「動く?必歩流帝。」
必歩流帝は、アトラクションの操作部をいじる。動かない。というより、電源が入ってない。必死であちこち探すと、テーブルの下の扉の中に「非常用」と書かれたレバーがあった。ガチャン。レバーを倒す。
「入った!
多分、いける。」
「よし、やってくれ!」
空玲須の返事で、必歩流帝は前進スイッチを押した。
ガコン、ガコン。レールのチェーンが動き、アトラクションを空高く運ぶ。最高位置から、一気にアトラクションが駆け降りる。キマイラの背中が近づく。
山羊が気づいた。口が赤く光る。火炎放射。
空玲須はマントを広げて投げた。火炎で押し戻されるマントの中心を鉄柱で貫き、そのままアトラクションから飛び降りた。マントは山羊の炎を受けて、徐々に焦げていく…。
「ウォォォッ!」
空玲須は雄叫びをあげて、鉄柱に力を込めた。火炎を受けて広がった穴から、溶けたアルミカップが流れ落ちる。山羊の口の中へ。そのまま鉄柱を押し込む。マントは燃え尽きた。
火炎放射は止まっていた。山羊の口は空を向いて開いたまま。ライオンの身体も、蛇の身体も動かない。
やがて、キマイラの身体を黒い煙が包み込んだ。煙はぐるぐると渦巻いて、空中に小さくまとまった。
空玲須は倒れる鉄柱を手放して着地しました。
「あらあら、よかったわあ。」
駅土奈先生の声がします。
「キマイラちゃん。よくきたわねぇ。
よしよし。さあ、戻りましょうね。
こっちへおいで。」
駅土奈先生は白衣の中に黒い煙を吸い込むと、空玲須に向き直りました。
「…空玲須くん。
今回は大変だったわね。
でも、ありがとう。
もう、だいたい、わたしのウチは全部戻ってきたと思うわ。
あなたのお・か・げ。」
投げキッスを残して、駅土奈先生は行ってしまいました。
必歩流帝が、走ってきます。
井尾玲が、振り向きます。
女鹿蘭は、へたり込みます。
出井亜寧羅は、よろよろと起き上がります。
尾牟派麗子は、女鹿蘭の肩に手を置きます。
歓声が、湧き起こります。
みんな、笑顔です。
八木、雷尾、蛇谷。
三人は、意識を取り戻しました。
身体に異常はないようです。でも、心は。
「何か、大変なことになっちゃった。」
八木の目から涙がこぼれ落ちます。
「あんたのせいじゃないよ。多分。悪いのはコイツ。」
蛇谷が雷尾を小突きます。
「いてっ。
ひどい。僕はただ、蛇谷さんと別れたくないって…。」
「うるさい。あんたなんか、もう、振ってやる。」
「じゃあ、わたしにもチャンスが!?」
…心のダメージも、それほど深くはないようです。




