第51話 修学旅行〜キマイラ④
女鹿蘭がリコーダーを構える。
すうっ。息を吸い…。
ぴ〜〜ひょろろぴ〜ひょろひょろピ!
蛇が、出井亜寧羅を放して地面に転がす。
「女鹿蘭よ。
もっと吹き続けよ!」
ぴ〜〜ひょろろぴ〜ぴ〜ひょろぴ〜〜ひょろろぴ〜…。
女鹿蘭の笛に合わせて、蛇が巨体をくねらせる。
ぴ〜ひょろぴ〜ひょろひょろピ!
息が尽きた女鹿蘭が音を途切れさせたとき、尾牟派麗子が叫んだ。
「スネ〜ク、カモンッ!」
蛇は、棒のように直立した。
いつの間にか、平米がいた。焦げた空玲須の身体を指でなぞる。平米に気づいた必歩流帝は、空玲須をさらに強く抱きかかえた。
「ウチが、なんとかする。
ウチのせいだから。
うわぁ〜。」
叫びと共に、必歩流帝の青い瞳から涙が溢れた。しかし、できることは、抱きしめることだけ。息もしていない身体を。
「必歩流帝。
あなたのせいではありません。
わたくしが、間違えたのです。
だから、わたくしが。」
平米の瞳からも涙が流れ落ちる。そっと、空玲須の焦げた手を取る。
「平米。
何をする?」
いつからいたのか、現れた平来が問う。
「この『青春』は、終わりといたします。
旦那様を傷つけてしまった。
もはや、続けることはかないません。」
平米の答えを、平来が口の端で笑った。
「まだ死んでいない。
空玲須が死ねば、我らはここにはいられないはず。
それでも、終わりなのか?」
平米は、唇を噛んだ。平来は本来の口調に戻って続ける。
「あなたのミスなのは確かですわ。
前のことも、そうでしたけど。
でも、もう言っても仕方ないこと。
今回はワタクシが、なんとかしますわ。
…空玲須は、とても楽しそうでしたからね、この世界。
もう少し、続けさせてあげてもいいと思いますわ。」
平米は、下を向いた。しばしの沈黙。そして。
「…分かりました。
お母様の力を少し戻しましょう。」
平来の胸のあたりが光り輝く。
うなずいて、襟のリボンタイを解く平来。ブラウスのボタンを上から外していく。豊かな胸の谷間に手をやる。その奥から取り出したのは、薄青く光を放つ小瓶。
平来は、瓶の中の液体を口に含み、焦げた空玲須の頬に手を当てた。驚く必歩流帝の前で、唇を重ねる。液体を空玲須の口の中に送り込む。
「な、何を!
ウチの空玲須に何すんだッ!」
必歩流帝のパンチを、片手で止める平来。
「まあ、見ておれ、小娘。」
あっけにとられる必歩流帝の腕の中で、焦げた空玲須の身体が元に戻っていく。
やがて、すっかり元通りになった空玲須を、必歩流帝は強く抱きしめて…。
赤くなって、放してしまった。
「あ、必歩流帝。
助けてくれて、ありがとう。」
そっぽを向く必歩流帝の前に立ち上がる空玲須。必歩流帝は、手で視界を遮りながら言った。
「服、着ろ〜!」
空玲須の服はすっかり焼け焦げて、その場に全て落ちていた。
「ほら、服。
そこの建物にあった。」
平来が、魔法学校の制服とマントを差し出した。
「あなた様。
わたくしをお許しください。
あなた様をあんな目に合わせて…。」
平米は、空玲須の前にひざまづいて詫びた。
「うーん、なんかよく分からないんだけど。」
必歩流帝が、空玲須が炎に焼かれた後のことを説明した。
「そうか。平来、ありがとう。必歩流帝、平米も。」
お礼を言って、魔法学校の制服を着た空玲須は、「怪化」の方を見た。
「みんなばっかり、がんばらせて。
オレ、ダメダメだ。
何とかしなきゃな。」
「あれは、キマイラ。
かつての英雄は、火を吐く山羊の口に鉛を入れて倒した、と。」
「鉛?金属か…。」
辺りを見回すと、転倒した販売ワゴンからこぼれ落ちたアルミカップが。
「これでいいかな。
投げ入れるのは難しそうだな。」
空玲須の問いに、平米が答えた。
「英雄は、空飛ぶ馬に乗り、槍で突き入れたのです。」
「槍と、空飛ぶ馬か。
よいしょ。」
空玲須は、倒れていた旗のついた鉄柱を拾い上げた。
「槍はこれで。あとは、空飛ぶ馬…。」




