第5話 学校祭〜居戸狼介②
「ぐるる…。」
低い唸り声を上げたまま、オルトロスの四つの眼がが、空玲須を睨む。
…まず、彼女たちの安全確保。
空玲須が考えるより先に、必歩流帝が動く。
「出井亜寧羅!ウチに合わせろ!
来い。」
釘バットを片手にオルトロスへ駆け寄る。
「がってん!
…何するかわかんないけどッ。」
とりあえず必歩流帝についていく出井亜寧羅。
「オオーン!」
雄叫びを上げて、オルトロスはパンチ…しようとしたが、手には彼女が!
一瞬の躊躇。
その隙をついて必歩流帝がオルトロスの膝から腕に駆け上がる。
「出井亜寧羅!受け止めろッ。」
必歩流帝は釘バットでオルトロスの片腕を一撃、二撃。痛みで手を離すオルトロス。落ちる彼女を出井亜寧羅が受け止めた。
必歩流帝を叩きつけようと、オルトロスは腕を地面に振り下ろした。間一髪、飛び降りる必歩流帝。
「もう一人も助けなきゃ!」
出井亜寧羅が叫ぶ。しかし、必歩流帝は動きを止めた。
「奇襲はもうダメだろうな。何か隙を作れれば…。」
涼やかな風が一巻き。進み出た井尾玲は、墨汁の入ったバケツをその場に置いて、大見得を切った。
「いくら好きでも、彼女さんを掴んで振り回すなんて、許せません!」
静かに、モップの先をバケツにつける。目を閉じて、精神集中…。
「行きます!」
目を見開き、オルトロスに突進する井尾玲。一画、二画…。素早く、鮮やかに、華麗で力強いモップ捌き。その場の全員が井尾玲の一挙手一投足に見惚れた。
モップがオルトロスの身体に、鮮やかな軌跡を残した。
「犬」
「かーっこいいー!井尾玲!」
出井亜寧羅は拍手喝采。
「よし!今だ!」
|必歩流帝はもう一方の腕によじ登り、またしても一撃、二撃、三撃。もう一人の彼女も解放した。
オルトロスの牙が、腕に乗ったままの必歩流帝に襲いかかる。急いで飛び降りるも、エプロンドレスがその牙に引っ掛けられた。
「チッ、だからもっとビシッとしたやつをよ…。」
「あなたたち!
彼のこと、まだ好き?」
女鹿蘭は、助けられた居戸狼介の彼女たちに問いかけた。彼女たちは、お互いの顔を見合って、複雑な表情を浮かべたが、やがて二人とも頷いた。
「だったら、助けなきゃ、ね。
行こう、一緒に。」
女鹿蘭と一緒に立ち上がる二人。
そのとき、校門から一台の黒い自動車が侵入してきた。ゆっくりと中庭まで進み、停止する。
ドアが開き、人々は、見えるはずのないレッドカーペットが敷かれるのを見た。
その上を歩むものは、尾牟派麗子。
纏うは女王の余裕。オルトロスに向けて、ゆっくりと歩みを進める。
突然の出来事にオルトロスも動きを止めた。やがて、オルトロスの足元まで来た尾牟派麗子は、必歩流帝に呼びかけた。
「必歩流帝と言ったな。そのバットを貸せ。」
「あ、はい。」
思わず丁寧な返事をして、必歩流帝はバットを手放した。落ちてくるバットを掴む尾牟派麗子。
「ふむ。」
オルトロスを見上げた尾牟派麗子は、空玲須を呼んだ。
「空玲須。
わらわを持ち上げよ。
…ただし、決して上は見るでないぞよ。」
空玲須は、尾牟派麗子を抱え上げて、肩の上に立たせた。両手で足首を支える。
「うむ。もう少し前じゃ。
よし、ここでよい。
しっかり支えておれよ。」
尾牟派麗子は、釘バットを力一杯に振り上げた。
ドグシャー
二つの口から泡を吹いて、オルトロスは倒れた。
尾牟派麗子いわく、
「不貞の男子を懲らしめるのは『股間』。
昔から決まっておろうが。」
「怪化」は解決しましたが、居戸狼介の修羅場はここからが本番なのです。
「自業自得。
警告を信じないのが悪い。」
平来がギザ歯の隙間からつぶやきました。




