第49話 修学旅行〜キマイラ②
「蛇谷とは、仲良くて。
ううん。仲良くしてもらってて…。
彼氏を取っちゃうみたいで、悩んだけど。」
八木は、涙ながらに蛇谷に訴えます。
「でも、好きになっちゃったんだから!」
蛇谷は、やれやれという顔をしました。
「だから、雷尾くんは、もういいの。」
はぁとため息をついて、蛇谷は雷尾に話します。
「私が、話があるって言ったのは、そういうことよ。
今まで、ありがとう、って。」
「何だよそれ!
今まで、って、別れるってこと?
それは血流量の減少による脳への酸素供給不足が…。」
混乱している様子の雷尾に、蛇谷は追い討ちをかけます。
「そういうセリフがメンドい。
全部否定されるし。もう、嫌なんだよ。」
「雷尾くん、わたしの話も聞いて欲しい。」
八木の訴えを雷尾は拒否。
「いや、今は慣性の法則に従ってまだ蛇谷さんとの話を続けるべきなんだ。
僕がこんなに好きなのに!
君は別れるって!?
そんなこと、物理学的にも生物学的にも非合理だ!」
何!?私、今、フラれた!?
八木の頭にネガティブな思考が流れ込みます。蛇谷は別れるって言ってるのに。私が好きって言ってるのに…。
八木の足元から、黒い煙がじわじわと立ち上ります。
「あれは!」
井尾玲、空玲須、出井亜寧羅、女鹿蘭、必歩流帝。皆気がつきました。
「怪化」!
黒い煙は勢いを増し、たちまち広場中央の三人を包み込みます。凄まじい風が吹き、煙を吹き飛ばしたとき、そこにいたのは。
見上げるほどの大きな動物。
ライオンの頭部と前脚。山羊の胴体と後脚。尻尾は巨大な蛇。
ライオンが吠える。辺りの空気がビリビリと振動する。
辺りは騒然とした。逃げ出す人。遠巻きに見る野次馬。へたり込んで動けない観光客も。
八つ当たりするかのように、走り回る「怪化」。道の販売ワゴンは蹴散らされ、旗のついた鉄柱は倒され…。それでも止まらずに、付近の建物を破壊しながら走り回る「怪化」。
その足元に、逃げ遅れた観光客が。
踏まれる。見ている人々がそう思ったとき、「怪化」の動きが止まった。
観光客を踏みかけた前脚を持ち上げているのは、空玲須。
「早く!逃げろっ!」
出井亜寧羅が駆けてきて、観光客を起こした。
「あっちへ!行こう!」
「やれやれ。
一応持ってきといてよかった、のかな。」
必歩流帝は、どこから出したのか、木刀を手にしていた。ライオンに向かって走り、跳ぶ。
振り下ろされた木刀は、ライオンの鼻面に命中し、ライオンは苦痛の叫びと共に後退した。
「おぉりゃあッ!」
追撃する必歩流帝。木刀を、前脚の爪で受けるライオン。双方、切り結んだまま、動かない。
山羊の口が赤く光る。
「危ないッ!」
必歩流帝をつき飛ばす空玲須。山羊の口から放たれる火炎放射が、空玲須の全身を焼いた。
火炎放射が止まる。
空玲須は、その場に倒れ込んだ。
「空玲須ー!」
必歩流帝が駆け寄る。黒く焦げた空玲須の身体を抱き上げる。
「空玲須、空玲須ぅー。」
他になす術がないまま、空玲須を揺すり続ける必歩流帝。涙が溢れる。
怒りに燃えたライオンの爪が振り上げられた。
「待ちなさいっ!」
銀の風を纏って、ライオンの前に立ちはだかる井尾玲。壊された建物から持ち出した「魔法のほうき」を手に、ライオンと睨みあった。




