第43話 修学旅行〜カフェ
「して、そちたちの希望は何じゃ?
何でも良いぞよ?」
尾牟派麗子の問いに、男子が手を挙げます。
「はい!
本当は、『エルフのパンケーキ』が食べたかったです!」
「でも、あれ、予約とか取れないし、めっちゃ並ぶからやめようって…。」
女子の心配そうなツッコミを聞かず、尾牟派麗子は横に立つ黒スーツに目配せをしました。電柱の陰に引っ込む黒スーツ。
「エルフというカフェなら、知っておるぞよ。店主が、父上の元に挨拶に来たことがあっての…。」
尾牟派麗子の言葉の途中で、黒スーツが戻って来た。尾牟派麗子はうなずく。
「オッケーじゃ。
それでは、向かうとしよう。
皆のものは、後ろの車に乗るがよい。」
道路を見ると、先程の黒い車の後ろにワンボックスカーが停車していました。
「空玲須、そちはこちらじゃ。」
尾牟派麗子は空玲須の肘を引っ張って、自分が乗っていた車に連れて行きます。
「せまいの。」
尾牟派麗子は隣に座る空玲須の膝に手を当ててぼやきました。車の後部座席には、右から尾牟派麗子、空玲須、そして女鹿蘭が乗っています。
「いいのいいの。わたし細いから全然せまくありませんよ。」
女鹿蘭の作り笑いが炸裂。
「ほほう…?
わらわだって、小柄じゃからの。
ちっともせまくはないぞよ。
せまいのは空玲須じゃ。
ほれ、もっとこっちに来て良いぞ。」
尾牟派麗子はそう言って空玲須の肘を引っ張りながら、チラリと女鹿蘭に視線をやります。
ぶつかり合う女鹿蘭と尾牟派麗子の視線。またしても見えない火花が飛び散ります。
…空玲須は、何だか、いたたまれない気持ちになりました。
「エルフ」の店内。
「店の前の行列を待たせることになるでな。
店主への挨拶は、後日改めていたす。」
案内された席に座りながら、尾牟派麗子は空玲須を自分の横に誘いました。
「わたしはここ。」
女鹿蘭が聞こえるように言いながら、空玲須の反対側の隣の席に着きます。
テーブルには、すでにメニューが置かれています。店員と黒スーツは、邪魔をしないように静かに壁際に立っています。
「ここ、よく写真で見る店内と違う…。
二階なんて、見たことないよ。」
女子がヒソヒソ話をします。
「すまぬの。
行列の客を押しのけるのは良くないと思うて、別室で準備してもろうたのじゃ。
…普通の席は、またの機会にしてたも。」
空玲須が窓の下を見ます。すごい行列。軽く見ても百人は並んでいます。
「さあて。
そなたら、ここに来たということは、狙いはアレじゃな。」
みんなの声が揃います。
「キマイラパンケーキ!」
あはは、とみんなで笑い合います。
「では、皆、それでよいな。」
「…でも、写真見たら、でかいらしいよ?
二人で一つとかでいいんじゃない?」
女鹿蘭が言ったときにはもう、尾牟派麗子は店員を呼んでいました。
「キマイラパンケーキを六つじゃ。」
「かしこまりました。」
店員はうやうやしく頭を下げて、奥に引っ込みました。
「…!?六つ?」
女鹿蘭が尾牟派麗子に聞きます。嫌な予感がします。
「うむ。わらわは空玲須と共に食べるでの。
そなたらは、一人一個ずつ堪能するがよいぞ。」
女鹿蘭のこめかみに、青い筋が多数浮かびました。




