第42話 修学旅行〜大都市へ
翌朝。
空玲須たち男子は朝食を済ませると、大荷物をバスへと積み込みました。
ロビーで、同じ班の女子を待ちます。何人もの生徒たちが空玲須たちの前を通り過ぎて、やっと来ました。
「ごめ〜ん。
この子、髪型がなかなかキマらなくって…。」
「だって。なんか、ナンパとかされるかもしれないじゃん。地元のイケメンとかに。
ちゃんとしとかないと…。」
男子にとっては、やれやれな会話を繰り広げる女子陣。そこに、女鹿蘭の一言が飛びます。
「それぐらいにして、さっさと乗った乗った。バス出ちゃうよ。」
女鹿蘭はまず、空玲須をバスに押し込みました。続いて乗り込む男子、そして女子たち。
バスは三組の生徒たちを乗せて、駅に向かって出発しました。
駅からは新幹線です。
空玲須は、座席に座っています。揺れもしない、風も感じない。しかし、馬よりも速く通り過ぎていく窓の外。自分は、今、進んでいるのか…。
「空玲須。ウノやろうぜウノ!」
男子がカードゲームに誘います。しかし、目当ては空玲須ではありません。
「女鹿蘭さんも、やろうよ。
空玲須もやるって。」
しかし、男子の希望は、女鹿蘭の正論であっさりと断ち切られました。
「通路挟んで遊んだら、他のお客様に迷惑でしょう。そこ三人でやってなさい!」
しょぼくれながらも三人でゲームを始める男子たち。女子はスマホをかざして前髪を直しながら、お土産についておしゃべりしています。
いくつか電車を乗り換えて、目的の駅に到着した空玲須たち。
途切れることのない人、人、人。空を切り分けるようにそびえる建物。派手な装飾…。
或高のある静かな街とは全然違う光景に、みんな戸惑いながら街を歩きます。
両手を空へ掲げた巨大な人型の看板。甲殻類を模した巨大なオブジェ…。
これは、神々の物語を伝えようとしているに違いない。神殿の像や壺絵のように。そうでなければ、巨大にする理由を説明できない…。
そんなことを思いながら歩く空玲須の横に、黒塗りの車が停まりました。スゥっと、後部座席の窓が開きます。
「そこな若いの。
一緒に茶しばかへんか?」
怪しい現地語と共に顔を出したのは、尾牟派麗子。黒いスーツの運転手がドアを開け、車から降り立ちました。あっけに取られる空玲須たちの前に立ちます。
「びっくりしたじゃろ。
わらわもびっくりじゃ。
『たまたま』視察に来たら、空玲須が歩いているのを見かけての。」
女鹿蘭は、「たまたま」の部分に作為を感じます。絶対、狙って来たわこの人…。
「そちたちは、どこへ向かうのじゃ?
なんなら、車で送ってやろうぞ?」
「オレたちは、街の様子を見ながら昼飯でも、と。」
尾牟派麗子に答える空玲須。女鹿蘭が話に割り込みます。
「そそ。だから、気にしないで。私たち歩くから。」
女鹿蘭は、尾牟派麗子に見えないエネルギー視線を放ちます。尾牟派麗子も口元をふっと持ち上げて反撃します。
「昼飯、ランチじゃな?
それでは、わらわも案内してたも。
…何でも、おごるぞよ?」
バチバチバチ…。聞こえない音と見えない火花が、女鹿蘭と尾牟派麗子の間でスパークします。
一方、同じ班のメンバーは。
何でもおごる?尾牟派麗子の言葉に、瞬時に脳内計算しました。修学旅行のお小遣いは限られている。ここで、昼一食分が浮くのは大きい…。
空玲須たちは、「賛成五、反対一」で、尾牟派麗子の車に乗せてもらうことになりました。




