第40話 修学旅行〜写真
「あはは…。
ここの子たちはそんなことしないよ。」
向こうから、必歩流帝の声がしました。
しゃがんで鼻を撫でています。鹿は必歩流帝の手を頬でくりくりします。
「カワイイな。」
必歩流帝は赤くなって、びっくりした顔で言いました。
「あ、うん。
鹿、ね。
…鹿、カワイイよな。」
空玲須も、鹿に手を出してみました。
ドン。頭で手を押されます。
「何か、オレ。
嫌がられてる?」
「そ、そんなことはない。
と、思う。」
必歩流帝はプチウケです。
周りの女子が、声を揃えて二人に声をかけました。
「ねー!
写真、とってあげる!」
必歩流帝は、胸の前で両手をブンブン振ります。いらないのジェスチャー。
「せっかくだから、撮ってもらおう?」
空玲須は、鹿の横にしゃがみます。
「し、しゃぁないな…。」
満更でもない顔をしながら、必歩流帝もしゃがみます。空玲須の横に顔を並べましたが、なぜだか、鹿の角が空玲須の頬をグイグイ追いやります。
「やっぱ、オレ、嫌がられてる気が…。」
空玲須の言葉に必歩流帝は柔らかな笑みを浮かべました。
「じゃあ、撮るよ〜!」
必歩流帝は、小さくピース。
空玲須もピースしますが、気を抜くとフレーム外に押しやられるので必死の笑顔です。
「せ〜のっ!」
パシャ。
気がつくと、周りの生徒たちは男女問わず二人の写真を撮っていました。…男子たちの写真からは空玲須はフレームアウトしていましたが。
「おー!
空玲須。俺たちと鳥居に行こうぜ!」
同じクラスの男子たちからの誘いです。空玲須は必歩流帝たちと別れて、鳥居に向かいました。
「干潮じゃないと、歩けないってさ。」
「カンチョー!」
男子が両手を組んで人差し指を立てます。
「バッカ!
そのカンチョーじゃねえ。」
「ははは!」
鳥居に到着した空玲須たち。鳥居を見上げます。巨大な門。これを海に建てるなんて。素晴らしい大工の腕前…。そういえば、凄腕の大工がいたなあ。
空玲須が深い記憶を辿っていると、岸から爆速で接近するものが見えます。
…出井亜寧羅が猛ダッシュ!
「空玲須く〜ん!」
周りの観光客も引くほどの速さで空玲須に近づき、腕をとって岸へと引っ張っていきます。
「写真撮ろう!
鳥居、入れよう!」
遅れて、男子たちも走ってきました。
チッ。空玲須と二人で撮ろうと思って走ったのに。
出井亜寧羅は、さらなる策を練ります。
「じゃあさ、男子たちをまず撮るよ。
そこに並んで!
空玲須くんも。」
男子たちを鳥居が入る画角で並ばせて、パシャ。早速、スマホの通信で送ります。
男子たちは満足そうです。
「次は、私を撮ってよ。」男子たちに頼みます。男子たちが湧きます。「四組のアイドルに写真を撮ってと頼まれた」なんて、勲章を得た気分です。
「じゃあ、撮りま〜す。」
男子たちがスマホを構えます。
「ちょい待ち。
空玲須くん、こっち来て。」
しれっと空玲須だけ呼ぶ出井亜寧羅。空玲須は出井亜寧羅の横に立ちます。
「いいよ〜。
撮って!」
「せ〜の!」
パシャ。
男子たちは、出井亜寧羅に写真を送ります。
「な、なんじゃこりゃあっ!」
珍しく、出井亜寧羅が叫び声を上げました。
「あんたたちっ!
もう、何、この写真。」
出井亜寧羅はプンプンです。
「え!?
…あ、カワイイ出井亜寧羅さん、です。」
男子たちはしゅんとしました。何がいけなかったのか、わかりません。
「出井亜寧羅の写真、見せてよ。」
空玲須は、男子のスマホの写真を覗きました。
…キュートなポーズの出井亜寧羅が一人で写っています。とてもカワイイ。
背景に鳥居もバッチリ入っています。空玲須は画角から外れて写っていません。
「出井亜寧羅!カワイイ!
いい写真じゃん?」
空玲須の言葉に、出井亜寧羅は少しプンプンが収まったようです。
「出井亜寧羅〜。」
男子の後ろから、四組の女子たちが手を振っています。アイコンタクトを出井亜寧羅に送りました。「ちゃんと、撮ったよ」と。
「参道行こ。参道。」
出井亜寧羅は、女子たちグループに手を引かれて参道に行ってしまいました。




