第38話 尾牟派麗子〜口外してはならぬ
空玲須に抱き止められた尾牟派麗子。
「怪化」は解け、元のパジャマ姿に戻っています。
➖➖ほわわ〜(麗子の妄想world)➖➖
「無事でよかった、尾牟派麗子」
「ありがとう…。」
唇が、近づく。
「あ。
でも、許す…。」
チューーー。
➖➖➖➖ ほわわ〜 ➖➖➖➖
「だ、ダメじゃぁー。」
空玲須を突き飛ばす尾牟派麗子。はずみで落ちそうになるのを、空玲須が支えます。
「大丈夫?尾牟派麗子。」
尾牟派麗子は、慌てて覗き込む空玲須の顔から目を逸らしました。
「だ、だめなのじゃ。
チューはダメ…。蛇になる…。」
空玲須は、クスっと笑いながら、尾牟派麗子を床に下ろしました。
「蛇は、よく分からないけど、いなくなった。」
「そちのおかげじゃ。」
➖➖ほわわ〜(麗子の妄想world?)➖➖
「それじゃ、お礼に」
「あ、ダメ…。」
チューーー。
➖➖➖➖ ほわわ〜 ➖➖➖➖
「ダメじゃあ。
どうしてもチューになるぅ。」
頭を抱えてへたり込む尾牟派麗子。
頭!?
側頭部を触ります。
ない。
そうか、さっきまで寝ていたから…。
「きゃーーーーーーー!」
叫び声。部屋になだれ込む黒服たち。
周囲を警戒しつつ、空玲須に拳銃を向けます。
「お嬢様。この者が狼藉を!?」
「ちがーう。
違う、けど。
…外に連れて行け。
急いで。」
空玲須には、わけが分かりません。でも。
「尾牟派麗子。オレ、悪いことしたなら、謝るよ。」
尾牟派麗子は下を向いたまま、返事をしません。そのまま、空玲須は、部屋のドアの外に追いやられます。
「秘密じゃ。」
尾牟派麗子の小さな声。それから、大きな声。
「なしじゃ。今のは、なし。
空玲須を置いて、そなたらは下がれ。」
「かしこまりました。」
黒服たちは空玲須を部屋に入れ直し、ドアを閉めました。
「もう、分かっておろうがの。
確認じゃ。
決して、今日見たものを口外してはならぬぞよ。」
尾牟派麗子の言葉に、空玲須は微笑みます。
「下半身蛇になって男に巻き付いた、なんて、確かに少し恥ずかしいかも。
絶対、言わないよ。」
「ちっがーう!」
尾牟派麗子の瞳が怒りに燃えています。
「今も見ておるじゃろうが。コレを!」
頭を指差します。
…
空玲須には、分かりません。
「…何?」
尾牟派麗子が、ぐぬぬと歯を噛み締めました。
「わらわはの。
本当は縦ロールではないのじゃあ!
毎朝、三十分かけて縦ロールにしておるのじゃ。
こんな、『本当はふわウェーブで、縦ロールじゃない』と皆にバレたら。
わらわのアイデンティティは、崩壊じゃぁ!
…よいな。決して口外してはならぬぞ。
分かったかの?」
空玲須は、とりあえずうんうんとうなずいておきました。
明け方近く。
空玲須を家まで送る黒い自動車を見ながら、平米は平来に尋ねました。
「お母様。
蛇女を放置したのは作戦ですの?」
「あいつは、神。
神の精気は無限だからな。」
「でも、この前みたいに、記憶と共に神の能力も失われているかもしれないのに。」
「…。
あ、あいつの今までを見れば、そうでないことぐらいわかりますわ。」
平米は、思いました。
お母様は、誤魔化すのが下手だなと。
焦って口調が戻っているし。本当は、神の能力が失われていることなんて忘れていたに違いありません。
でも、それを指摘するとヘソを曲げてしまいますから。
「信頼も、『青春』の力ですわ。素晴らしいですわね。」
平米は、微笑みながら、平来に言いました。




