第34話 必歩流帝〜テウメッソスの狐②
「怪化」したバイクは必歩流帝の足元から下半身と同化していく。その姿は、さながら巨大な狐。揺れる体毛は炎のように揺れ、光り輝いている。
「テウメッソスの狐。
『決して捕まることがない』
神が決めた宿命。」
いつのまにか隣にいた平来。
「来ると思った。」
空玲須が、平来に微笑みかける。少し赤くなって、平来はそっぽを向いた。
グオォー。
狐のエンジンが吠え、空玲須たちを振り返った。
「空玲須くん。乗りな。
…アイツは多分、私たちを挑発してる。
勝てないだろうって。」
女性が言った。平来が否定する。
「捕まえられない。
『ライラプス』でも。
それが昔話。」
「…ライラプスか。
ははっ。奇遇だね。」
女性は、サイドかのエンジンをふかした。
ブロロー、ブォ、ブォー。
「このマシンも、『ライラプス』。
二十年前のモデルだけどね。」
空玲須がライラプスの座席に乗り込んだ途端に、女性は狐に向けてサイドカーを発進させた。
不意を突かれて発進が遅くなった狐。たちまち、ライラプスが横に並ぶ。
「理由、言ってごらん?」
必歩流帝が、女性の伸ばした手を振り払う。
「外国なんか行かねえ。
行ったら、
離れば…
うわぁーッ!」
叫ぶ必歩流帝。口からは黒い煙がはみ出している。目は血走り、鬼気迫る形相。「怪化」の影響だろうか。
狐が速度を上げる。少し距離が開いた。
「空玲須くん。
やっぱり、君じゃなきゃ。
よろしくね。」
女性がそう言って、狐の右側になるようハンドルを捌いた。アクセルを開く。
轟音と共に速度が上がる。再び横に並ぶ狐とライラプス。
「ほら、今よ!
愛の言葉を!」
女性が叫ぶ。
「何言って!?」
必歩流帝の声と共に、狐の速度が落ちる。
愛の言葉かはわからなかったが、空玲須は呼びかけた。
「必歩流帝!
オレと、来いよ!」
狐のハンドルを握る必歩流帝の手に、そっと触れる。
必歩流帝は、振り払わなかった。
「まだ、逃げる気?」
女性が必歩流帝に呼びかける。
「母さんの言う通りだ。
戻ってこいよ。必歩流帝。」
空玲須は必歩流帝の手を握り、引き寄せた。
狐の炎から、必歩流帝の下半身が抜ける。そのまま空玲須は、必歩流帝の身体をサイドカーの座席に滑り込ませた。
女性は、ライラプスのブレーキを握った。
狐は無人のまましばらく走って、そして止まった。普通のバイクに戻った狐の上には黒い煙が集まっていた。
「空玲須。ウチ…。」
空玲須の胸に額を寄せる必歩流帝。
「それが、理由ってわけね。」
必歩流帝の母が、ニヤニヤしながら座席を覗き込みます。
「ば、バカ。
これは、その…。」
赤くなって否定する必歩流帝に、母は言いました。
「いいのいいの。
空玲須くんにも『母さん』って呼ばれちゃったからねぇ〜。」
母のイジリは留まることを知らず、空玲須も巻き込みながら延々と続きました。




