第33話 必歩流帝〜テウメッソスの狐①
久しぶりに、三組の教室に、必歩流帝がやってきました。つかつかと空玲須に近づいて、顔を寄せます。
遠くの席の女鹿蘭の緊張が増します。
「空玲須。
…ウチは逃げる。
ウチとのことは、誰にも話さないでくれ。」
「???」
唐突すぎて、空玲須には全く意味分かりません。必歩流帝は、空玲須に背を向けて言いました。
「三日間。
アイツが日本にいる時間、逃げ切ればいい。…アイツはきっと、お前のところに来るはず。
いいか?
絶対、話さないで。
…逃げ切れれば、ウチが何でもいうこと聞いてあげる。」
周りの男子が、変な妄想を逞しくしています。空玲須は、これ以上聞いてもわからなさそうなので、うんうんとうなずきました。
放課後。
校門を出る空玲須を呼び止めたのは、大型バイク、いや、サイドカーにまたがった女性。
「キミ、空玲須くんでしょ?
ちょっと、話が聞きたいな。」
サイドカーのエンジンをかけたまま、女性は空玲須に鋭い視線を投げました。
これが、必歩流帝が言っていた「アイツ」か?
ヘルメットを取ると、中からは溢れる金髪。黒い皮のツナギのファスナーは大きく開かれ、セクシーな印象。すらりとした長い手足。
どこかで会ったことがあるような…。というか、この人は。
「必歩流帝の…。」
母?といいかけた空玲須を、女性が遮る。
「必歩流帝ね。
…ありがとう。お陰で居場所、わかったわ。」
女性はヘルメットを被り直し、爆音と共にその場を去った。
マズったな。空玲須は女性が行ってしまってから気がついた。「必歩流帝」はチーム名、と言っていた。あの女性はきっと、そのチームに心当たりがあるのだろう。
責任は取らなければ。空玲須は、自転車にまたがりました。
自転車。意思を持たない鉄の馬。最近になって、ようやく乗れるようになった。走るより少し速いし、何より疲れないで遠くまで行ける。
目的地は、いつか酷等と戦った、あの倉庫です。
空玲須が倉庫に着いた時にはもう、壮絶な
母子闘争が繰り広げられていました。
「だから、一緒には行かないって言ってる!」
「なんでよ?
いいじゃない。ご飯くらい付き合ってよ。
せっかく、久しぶりの日本なんだから。」
「いやだあ〜。
放せー!」
必歩流帝が、特攻服の裾から女性を引き剥がします。
「必歩流帝!」
声をかけた空玲須の、胸ぐらを必歩流帝が電光石火、掴み上げます。
「お前、よくも…。
バラしやがったな!」
「その子は場所は話してないわよ。
ただ、『必歩流帝』って名前を教えてくれただけ。」
女性は、不敵な笑みを浮かべながら続けます。
「あなた、グッズとバイク全部持ってったでしょ。チームがバレないように。
あなたの読みは正しい。
名前だけでも分かれば、昔のツテで辿るのは簡単。ちょっと地形変わってて手間取ったけど。」
相変わらず空玲須にはよくわかりませんが、とりあえず。
「食事するぐらい、いいんじゃないの?」
聞いてみました。
「うるせー。
それが作戦なんだ。
食事とか言って、ウチを外国に連れてく魂胆なんだー。」
必歩流帝は、空玲須の胸ぐらから手を放し、駄々っ子のように叫びます。女性はそれを聞いて、ふふ、と笑いました。
「それが、私から逃げてる理由?
確かに。
私は、あなたに一緒に来て欲しいと思ってるわ。でもね。
『ちゃんとした理由がある』なら、ここに残ってもいい、とも思ってる。
ご飯食べながら、話しましょ?」
空玲須は、女性の言うことは信用できる、と思いました。
「必歩流帝、ちゃんと理由、話してみたら?」
必歩流帝は、空玲須の顔を見つめました。
そして。
「いやだー
そんなこと、言えるかよぉ〜ッ!
ウチは逃げるんだ〜!」
素早くバイクにまたがった必歩流帝。その足元から、黒い煙が立ち上ります。
「『怪化』!?」
空玲須たちの目の前で、必歩流帝のバイクは姿を変えていきました。




