第29話 井尾玲〜正解
「せいかい。」
井尾玲は校門の上から、空玲須に告げた。
背中の翼が開かれる。
「なぞは、とかれた。
われは、さらねばならぬ。」
大きく翼をはためかせ、空に舞い上がる井尾玲。そして、翼を閉じる。
高い空から落下してくる井尾玲の身体。
空玲須は、落下地点で待ち構えた。しかしあの高さから落ちれば、無事受け止めるのは難しい。
「やれやれ
…!?」
手助けをしようと腕をかざした平来が、驚いて動きを止める。
井尾玲は、空玲須の腕が届く直前で翼を開いた。落下の速度が緩む。
そして、井尾玲は、差し伸べた空玲須の腕にふわりと滑り込んだ。「怪化」はすでに解けて、元の井尾玲の姿に戻っていた。
「空玲須くん…。」
井尾玲は、空玲須を見つめて言った。
「わたし、決めました。」
そっと、空玲須の胸に顔をうずめる井尾玲。
…なぜか、周囲からは拍手が湧き起こりました。それは感動か、祝福か。説明できない感情が、その拍手に込められていました。
校門に群がっていた男子たちは、帰路に着きます。
空玲須は、井尾玲をそっと下ろします。
そして、井尾玲の上に浮かぶ黒い煙を、ポケットから出したレジ袋に押し込めながら聞きました。
「決めたって?
何を?」
井尾玲は、くるりと背を向けて答えます。
「いつか、その日が来たら言います。
…今日も、ありがとう。空玲須くん。」
次の日も、井尾玲は書道部で大活躍です。
「センパーイ、紙無くなりそうですー。」
「あ、それ、美濃田先生に頼むの忘れてた。
ごめん、職員室行って頼んできて。」
そしてまた、町の「文化祭」の話し合い。
初めは真面目に話していますが、やっぱり脱線しました。
「もういっそ、会場でパフォーマンスしません?
井尾玲先輩は、ライオンコスプレで。」
みんなが笑います。
「いいっすねー。」
「人気出ますよ!」
井尾玲は赤くなって否定します。
「あ、アレはコスプレとかじゃないし。」
「でも、あの時の写真、もらいましたよ。
男子たちの間で人気で。
あれ?」
女子部員が自分のスマホをいじります。
「おっかしいなあ。保存しといたんだけど…。」
他の部員も自分のスマホを見てみましたが、誰のスマホからも井尾玲の写真は消えていました。
「あーもったいない。
カワイかったのに〜。」
写真が消えた理由は、井尾玲には分かりません。「怪化」だからでしょうか。何にしろ恥ずかしいので、消えてよかったなあ、と井尾玲は思いました。
「もう、真面目に話しましょう。
そろそろ、題材を決めないと間に合わないよ。」
井尾玲は、話し合いを元の軌道に戻します。
平米は、学校の玄関先に腰掛けて、生徒たちの行き来をながめています。
「『迷い』もまた、青春です。」




