第28話 井尾玲〜スフィンクス②
「怪化」の気配を感じて、校門まで走った空玲須。そこで見たものは…。
ライオンコスプレ、獣座りで校門の上に鎮座する井尾玲と、その前にいる長蛇の列だった。
運動部の下校時間と重なったからだろうか?いやそれだけではなさそうだ。…男子ばっかりだからな。
空玲須は改めて井尾玲を見た。「怪化」しているのは明らかだが、顔から胸までは井尾玲のまま。鎖骨や胸元は露出している…。
セクシーすぎる。コレが男子たちを引き寄せる理由か!
そんなことを思いながら、空玲須も列の最後尾に並んだ。すると、先頭あたりから打撃音が聞こえた。
ネコパンチだ。次の男子も、その次も。井尾玲に何か言った男子は、ネコパンチで虚空の彼方へ送られている。
「いやあ、なかなか、いいですな。」
空玲須の後ろに肘を擦りむいた男子たちが並ぶ。
「そうですなあ。
あの胸元が近づいてきて…。
そして、あの肉球が頬に触れる感触!
ああ、至福。」
「まさに、至福!」
空玲須は、ついていけないな、と思いました。この男子たち、服もあちこち破れているし、膝も擦りむいた跡がある。ネコパンチを喰らうために何度も並んでいるに違いありません。
空玲須の番が段々と近づいてきます。井尾玲との会話の内容も聞き取れるようになってきました。
「なんじにとう。
『恋と友情』
どちらをとるべきか。
こたえは、いかに?」
最前列の男子が答えます。
「恋!
僕の恋を受け止めてくださいッ!」
井尾玲の前脚が、校門の上から伸びます。
男子は空の彼方へ飛んでいきました。
次の男子の答えは、
「友情ですッ。
一人じゃ、バスケできないっす!」
一瞬の躊躇の後、井尾玲の前脚がヒット。
「俺は、両方なんとかします。」
その次の男子も、速攻、星になりました。
いつの間にか、空玲須の横には平来がいました。
「アレは、スフィンクス。
謎かけをして、解けない者を喰らう。」
「それも、昔話?」
空玲須が聞きます。
「そう。
そして、謎が解かれると、飛び降りて死んだ。」
井尾玲が、危ない…?
空玲須は一瞬そう思いましたが、心に浮かんだ疑問を平来に投げかけて見ました。
「羽生えてるけど、落ちて死ぬの?」
平来の答えは。
「昔話では、そうなってる。」
そうこうしているうちに、空玲須の番がやってきました。
空玲須を目の前にして、黙り込む井尾玲。
「井尾玲、謎かけはしないのか?」
空玲須が促します。井尾玲は、目を閉じた後、決心したかのように言葉を発しました。
「なんじにとう。
『恋と友情』
どちらをとるべきか。
こたえは、いかに?」
井尾玲は、スフィンクスの中から空玲須を見つめていました。
空玲須くん。ごめん。
きっとあなたには正解は出せない。
あなたこそ、わたしの迷いの元だもの。
それに、真っ直ぐで、ちょっと鈍感な人だからね。
ネコパンチ、痛いかも。
それとも、空玲須くんなら、力ずくて止めてくれるかしら…。
「井尾玲が、どちらを選びたいか、オレにはわからない。
だから、どちらを選べばいいか、答えることはできないよ。」
ネコパンチが飛ぶ。片手で掴み、受け止める空玲須。
「井尾玲にもわかってるんだろ?
他の誰にも答えは出せない。
井尾玲自身にしか、正解はわからないんだって。」
ネコパンチの前脚を、すっと引く井尾玲。
…そうだよ。わかってた。
答えだって、多分、初めから決めてた。
でも、誰かに聞きたかった。
わたしの選択は、正しいのかな、って。
「学校祭で『今は友情』って言った。
それは、間違ってない。
後から恋が大事になったっていい。
どっちの気持ちも、嘘じゃないはずだから。」
空玲須は、そう言って微笑んだ。




