第27話 井尾玲〜スフィンクス①
「せんぱーい、できました。」
後輩から、声をかけられる井尾玲。
「わあ、とっても力強い。特にここの線が…。」
学校祭の後、書道部は見学者が殺到しました。今はブームも落ち着いて見学者は少なくなりましたが、そのうち何人かの生徒は入部してくれています。人数は決して多くなくても、仲間ができた。井尾玲にとっては、それが何より嬉しいことでした。
しばらく練習した後は、発表の企画会議です。学校祭は終わってしまいましたが、町の「文化祭」があるので、そこに出す作品をどうするか、みんなで話し合います。
初めは真面目に話していますが、そこは高校生。脱線こそ若さ。互いの恋愛事情などを話し始めます。
一人だけいる男子は、退散して、道具を片付け始めました。
「…で、それ以来あんまり話せなくって。
もう、告っちゃおうかな、って思ってるんです。」
部員たちが盛り上がる中、井尾玲は苦笑します。
「告るといえば、学校祭の時の井尾玲先輩。
可愛かったですよね。私キュンキュンしちったもん。」
「え!?」
思わぬところから井尾玲に飛び火しました。変な声で返事をしてしまいます。
「そうそう、相手の人、思わず返事したもんね。井尾玲先輩だけ。」
ニヤニヤしながら、過去をほじくる後輩。
…。
井尾玲は黙ってしまいます。
あの時、確かに空玲須くんは返事をした。でも、あれはきっと。
演技。そう思う井尾玲ですが、違う考えも頭をかすめます。
もしかしたら、本気!?
「…井尾玲先輩〜。
どしたんすか?ぼーっとして。」
「あー、もしかして、実はあの人のことが
『本気で好き』とかぁ?」
冷やかしのつもりの一言が、井尾玲の胸に刺さります。
「そうですよ。
『恋と友情』だったら、『今は友情』だって言ってましたもんね、ね?」
今は「友情」。あの時は確かにそう言った。でも、本当に本気でそう思っていたんだろうか…。わたしは。
井尾玲の足元から、黒い煙が湧き出してきました。
「ええ!?
ナニコレ!?」
部員たちが騒ぎ立てる中、煙は井尾玲の全身を包み。
やがて煙が消えた時、井尾玲は変わり果てた姿でそこに立っていました。
全身は黄金の毛に覆われ、肩にはフサフサ。まるで鬣のよう。
顔から首、胸元にかけてだけ、人の肌が露出しています。
後脚は人のそれではなく、前足には隠れた爪と肉球。
頬には左右三対の長いヒゲ。そして頭の上には、丸く可愛らしい獅子の耳が乗っかっています。
獅子人間。
…
ライオンコスプレ!?
「か!」
「可愛い…!!」
「怪化」した井尾玲は、肉球から爪をシャキーンと出して吠えました。
「がおー!」
「きゃーっ!」
「逃げろーっ!」
黄色い悲鳴をあげながら逃げ出す部員たち。
井尾玲は、部員たちを追って校舎から出て、玄関先の階段で、ふと止まります。
むくむくと背中が膨らんで、バサァッ。
大きな鳥の翼を広げて、井尾玲は空へ飛び上がり、校門の上に舞い降りました。
門の上から問いかけます。
「なんじらにとう。
『恋と友情』
どちらをとるべきか。」




