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第26話 出井亜寧羅〜本心

 川岸まで泳ぎ着いた空玲須(クレス)と出井亜寧羅(デイアネイラ)。出井亜寧羅(デイアネイラ)の怪化は既に解け、黒い煙が彼女の周囲を巡っています。

 空玲須(クレス)はポケットからレジ袋を取り出しましたが、びしょびしょで、なかなかうまく開きません。

「貸して。」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)が空玲須(クレス)に手を伸ばしました。

 ドキッ。

 出井亜寧羅(デイアネイラ)も、びしょびしょです。髪からは水が滴り落ち、制服のブラウスも、肌にピッタリと…

 空玲須(クレス)は、目を逸らしました。

「あ、またそうやって、自分でやろうとする!

 手伝ってあげるから、貸してッ!」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は、ますます空玲須(クレス)に接近します。コレは、ヤバい。

 空玲須(クレス)は、出井亜寧羅(デイアネイラ)にレジ袋を渡して、立ち上がりました。そして、おもむろに自分のシャツを脱ぎ始めます。

 今度は、出井亜寧羅(デイアネイラ)がドキドキします。

 …なぜ脱ぐのか。まさか…ここで!?

 空玲須(クレス)は脱いだシャツを、出井亜寧羅(デイアネイラ)の両肩にかけました。

「コレでね。見えない。」

「!?」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は、ようやく空玲須(クレス)の態度の意味を理解しました。

 絹を裂くような出井亜寧羅(デイアネイラ)の叫びが川岸にこだまして、川から大きな水しぶきが上がりました。


「ごめんね。空玲須(クレス)くん。

 つい、ね。

 だって、恥ずかしいから。」

 二度目の川から上がってきた空玲須(クレス)に、出井亜寧羅(デイアネイラ)は謝り倒しました。

「オレも、なんか、ごめん。

 説明が下手すぎて。」

 空玲須(クレス)は、やっぱり出井亜寧羅(デイアネイラ)の方を見ないで立ち上がりました。

「これさ。ありがとう。」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は空玲須(クレス)の後ろから背伸びをして、借りたシャツを肩にかけました。

「でも、裸の男の子といるところ、誰かに見られたら大変だから返すよ。」

 そしてそのまま、肩に唇を近づけて小さな声で聞きました。

「やっぱり、こういうのって、見たい?」

 空玲須(クレス)は、そっぽを向いたまま、黙ってシャツのボタンを留めていました。


 すっかり暗くなったプールの横を、二人は歩いて帰ります。

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は部室で体操着に着替えたけれど、何となく空玲須(クレス)は出井亜寧羅(デイアネイラ)の方を見ないで歩きます。

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は。

 空玲須(クレス)の隣を歩きます。

 以前ならつかめた手も、今は何となく気が引けます。

 それは、想いを伝えたから。

 空玲須(クレス)に届いたのか、それは、出井亜寧羅(デイアネイラ)にはわかりません。

 知りたいな。でも。

 出井亜寧羅(デイアネイラ)の頭の中で、犬が吠えました。

 一人でうなずく出井亜寧羅(デイアネイラ)。

「ねー、空玲須(クレス)くん?」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は、空玲須(クレス)の左腕に自分の腕を巻き込みます。

「さっきのアレ、聞こえた?」

 空玲須(クレス)はやっぱり出井亜寧羅(デイアネイラ)を見ません。そして耳まで真っ赤にして答えました。

「うん。

 …そりゃ、まあ、見たいかと言われたら、

 見たい、よね。」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)の顔がみるみる赤くなって…。

「そっちじゃなーい!」


 街灯に長く伸びる二つの影が、校門から出ていきました。

 これから先、どうなっていくのか、わからないけど。

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は後悔していません。

 だって、まだ。

 そう、まだ。

 このままで、いいのです。

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