第21話 体育大会〜春日伊逢
次は、障害物競争です。
去年はパン食い競争でしたが、「衛生面の懸念」で今年から障害物競争になりました。
ここに、ちくわパンファンの女子が一人。
「わたし、今年も『ちくわパン』食べるつもりだったのに…。」
春日伊逢は、なぜ、そんなに「ちくわパン」にこだわるのでしょう。
あれは、春日伊逢が幼稚園の頃。
運動会でやった、パン食い競争。
春日伊逢は一等賞です。
大好きだったおばあちゃんは、手を叩いて喜んでくれました。おばあちゃんと分け合って食べた、その時のちくわパン。
…おばあちゃんは、もう、いません。
でも、その時のちくわパンの味は忘れない。
「…許せない。
わたしの、ちくわパンを。
パン食い競争を。
返して!」
春日伊逢の足元から黒い煙が立ち上りました。
生徒席のテントから、竜巻が巻き起こります。周囲のものを巻き上げながら、グラウンドを暴れ回る竜巻。
競技は一時中断です。生徒たちは校舎内へ避難しました。
「ねえ、あの竜巻、変じゃない?」
女鹿蘭が、空玲須に言いました。空玲須も、竜巻の頂上に見える黒い影に気がつきます。あれは…。
「空玲須くん!
あれ、『怪化』でしょ?
助けなきゃ!」
出井亜寧羅が走ってきました。
「でも、近づくと巻き込まれるわ。」
女鹿蘭は、冷静ですが、出井亜寧羅は落ち着いていられません。足踏みしながら空玲須に言います。
「でも、でも。
何とかしなきゃ。
今までだって、みんな色々あったから。
助けてあげなきゃ。」
空玲須は頷き、出井亜寧羅と外に出た。たちまち竜巻が二人に向かってくる。
空玲須は竜巻に巻き込まれる寸前で、出井亜寧羅を突き飛ばした。勢いよく巻き上がる空玲須。
竜巻の頂上まで巻き上がった空玲須は、春日伊逢の両羽を掴んでしがみつく。
「ぐ、グピーッ」
暴れる春日伊逢。竜巻はあちこちに迷走したが、徐々に弱まり、消失していった。
やがて飛ぶことができなくなった春日伊逢は、空玲須によって地面に組み伏せられていました。
「ぐ、ハナセ…。」
出井亜寧羅が話しかけます。
「あなたは、どうしたかったの?
どう、なりたかった?」
春日伊逢はもう暴れることなく、静かに語り始めました。
ちくわパン。パン食い競争の思い出。
「そっか。
パン食い競争、なくなっちゃったもんね。」
出井亜寧羅の目には、涙が滲んでいました。
「よし!
わたしと、パン食い競争しようよ!」
出井亜寧羅は、立ち上がって言いました。
しかし、パンがありません。
その時。
校門に、黒い車が停まりました。
「尾牟派麗子!
お願いがあるんだ。」
空玲須が土下座します。
「な、なんじゃ、藪から棒に…。」
尾牟派麗子はとても驚きましたが、数分後にはもう、「ちくわパン」が準備されていました。
「ようし。
わたし、このパン持って走るから。
捕まえて、パンを咥えたら、あなたの勝ち!
いっくよー!」
出井亜寧羅は、ちくわパンを持って走り出します。
春日伊逢も追いかけます。速い速い…、でも途中で失速します。春日伊逢の怪化が解けて、人間の姿に戻っていきます。
出井亜寧羅は、そのままゴール…、いえ。
ゴールの前で、ちくわパンを高く持って待っていました。
春日伊逢は、ようやくちくわパンにたどり着き、ジャンプして袋をくわえて、ゴール。
いつしかグラウンドに戻っていた生徒たちが、春日伊逢に惜しみない拍手を送りました。




