第17話 学校祭〜備青恋①
私の歌をみんな聞いてくれている。あんなに夢中になって…。
「怪化」した備青恋は、意思を失った観客たちを見ながら、満足気な表情を浮かべ「歌い続けた」。
平来は、辺りを見回して平米を探す。いない。仕方がない。大声で呼んだ。
「平米!」
平米は、いつの間にか平来の横に立っていた。
「…確かに、これはやりすぎましたね。
旦那様なら何とかできると思ったのですけど。」
「彼は特殊な能力を持つ者と戦ったことがないから、こういうのはダメですわね。
あなた、知らなかったの?妻のくせに。」
平来は、本来の神の話し方に戻った。平米は、悔しそうに唇をとんがらせる。
「…生まれた時から全部見ているお母様とは違います。神になられてからのことしか…。」
「あら?
そういえば彼、神になってるはずなのに、何で…。」
「ええ、とりあえず神としての記憶をリセットした関係だと思うのですが。」
「まあ、いいですわ。その話は後回しで。
とにかく、あれを何とかしなければ。ワタクシがやっても?」
「いいえ、『青春』ですもの。
旦那様に少しだけ手を貸しますわ。」
平米は、備青恋の歌に合わせて手を振っている空玲須の腕をとって、身体を密着させた。
「あなた様、そろそろ起きてくださいな。」
そして頰にフレンチキッス。
「…あ、あれ?」
空玲須は、我に帰りました。
「あなた様、あの歌を何とかしなければ。」
平米は、ステージ上の備青恋を指差した。
空玲須は、備青恋を見て…。ふと目に止まったのは、ステージ奥のドラムセット。
「音楽には、音楽だ。」
空玲須はステージに駆け上り、ドラムセットの椅子に座る。
そんな、ドラムごときで私の歌を遮れると思うならば、やってみるが良い。備青恋はそれを横目で見ながら、余裕の表情で「歌い続けて」いる。
「い、いかーん!」
平来は、空玲須を止めに入ろうとしたが、遅かった…。
一つ深呼吸をしてから、空玲須はドラムスティックを振るい始めた。小さな振動。小刻みに刻む波動はやがて激しさを増し…。
「な、何だ、これは…。」
備青恋は歌うことができなくなった。激しい音。空玲須のドラムセットが起こす波動は、周囲の空気を揺らし、校舎のガラスを破り、ステージセットを崩壊させていく。
もはや、音というより、衝撃波。それはどんどん激しさを増し、やがて周囲の木々がピキピキと音を立て始める。壁にひび割れが発生する…。
「だ、ダメですわ。コレは、あの時と同じ…。演奏をやめさせないと、崩壊してしまう。」
「ええ、お母様。コレは、ヒドい。」
平米は、衝撃波に耐えながら、何とか空玲須の横に移動した。そして、スティックを優しく止める。
「あなた様、これ以上はやめておきましょ。」
空気の振動が止まった。逆上した備青恋が、空玲須に飛びかかる。
鋭い爪をかわして、備青恋の脚を掴んだ空玲須。ステージ上の女子を見る。あれほどの振動にも関わらず、一人も意識を戻してはいない。観客席に目をやる。観客も同じだ。
「平米?
みんなはどうやれば、戻る?」
脚を振りほどこうと暴れる備青恋。そのまま飛びあがろうとする彼女を、空玲須は羽を掴んで抑えつけた。




