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第32話 ゾゾルンデ村


今度こそ、西へ。


魔王城を出発した三人は、

再び荒野へ。


ところが、魔界の旅は、

どうやら思い通りには進まないようです。



Le village de Zozorunde


翌朝。


三人は、

再び魔王城を出た。


ミュルラスが、

ノエルとエルネの手首を掴む。


一瞬。


景色が変わった。


そこは、見覚えのある荒野だった。


巨大な旋風に巻き込まれる前、

三人が目指していた岩場。


「ここなら分かる」


ミュルラスは、

すぐに地図を広げた。


「こっちが西だ」


ノエルも覗き込む。


「今度こそだね」


「ああ」


「ノエル」


「なに?」


「今日は勝手にどこかへ行くなよ」


「……」


「匂いがしてもだ」


「分かってるよ」


「本当か?」


「ちゃんと言う」


ノエルは、

少し口を尖らせた。


「何か気になるものがあったら、みんなに言って、待ってもらう」


「よし」


「子供じゃないんだから」


「穴に落ちただろ」


「……」


エルネが笑う。


「ほっほー」


「エルネも笑わないでよ」


三人は、

西へ向かって歩き始めた。


*


しばらく進むと、

荒野が終わった。


それほど深くない森。


木々の間には、

まだ十分に光が届いている。


「ん?」


ノエルが、

立ち止まった。


「どうした」


「あれ」


木々の向こうに、

小さな建物があった。


古い木造。

屋根は少し傾いている。


軒先には、瓶や袋や、

何に使うのか分からない道具が並んでいた。


「お店?」


近づいてみる。


どうやら、よろず屋らしい。


ノエルは、

店先に置かれた小さな袋を手に取った。

中には、灰色の粉。


「これ、なに?」


店先に座っていた魔獣が、

ちらりとノエルを見る。


「魔虫避けだ」


「魔虫?」


「ここから先、大量にいる」


それだけ言うと、

またそっぽを向いた。


ノエルは袋を見る。


「買わなくていいの?」


その時、


「おおおお。そうだ、ノエル」


ミュルラスが、

妙に嬉しそうな声を出した。


「なに?」


「それは買わなくていいぞ」


「どうして?」


「とっておきの防御がある」


胸を張る。


「教えてやろうか?」


「……うん」


ノエルは、ミュルラスを見る。


「君、どうしたの?」


「なんだ」


「なんか、嬉しそう」


「別に」


「ほっほー」


「じじい」


ミュルラスが、

エルネを見る。


「その短剣を出せ」


「なんじゃ、突然」


「俺を刺してみろ」


「え?」


ノエルが、

目を丸くした。


「何するの?」


「いいから刺せ」


「老人をこき使うでない」


「早くしろ」


エルネは、

仕方なく短剣を取り出した。


「では」


ブスッ。


「痛っ!」


「……」


「……」


ノエルが、ミュルラスを見る。

エルネも、ミュルラスを見る。


「なんだ」


エルネが言った。


「魔術を防ぐものじゃぞ」


「……」


「物理攻撃は別じゃ」


「先に言え!」


「前に言ったわい」


ノエルは、刺されたところを見る。


「大丈夫?」


「平気だ」


「エルネが手加減してくれてよかったね」


「……」


「それで、何がやりたかったの?」


「ええい、もういい!」


ミュルラスは、立ち上がった。


「とにかくだな」


ノエルの前へ立つ。


「身体の周りに、膜を張る」


「膜?」


「ああ」


「どうやって?」


「身体の周りに……」


考える。


「空気を置いておく」


「空気を置く?」


「そうだ」


ノエルは、

さらに分からない顔をした。


「じじい!」


「なんじゃ」


「説明しろ」


「ほっほー」


エルネが、ノエルの前へ出る。


「集中するんじゃ」


「うん」


「自分の身体の周りに、薄い膜があるところを想像してみよ」


エルネが、

自分の周囲へ魔力を流す。


ふわり。


空気の表面が、わずかに揺れた。


ノエルの目が、輝く。


「おおおおおお!」


「分かるか?」


「うん! 何か薄い膜がある!」


「そうじゃ」


「やってみてよいぞ」


ノエルは、

目を閉じた。


「薄い膜……」


身体の周り。

自分とは別の、薄い空間。


静かに、魔力を流す。


ふわり。


「……できた?」


エルネが、目を細めた。


「見事じゃ」


「本当?」


「そのまま維持してみよ」


ノエルは、そっと歩く。


膜も、

一緒についてくる。


「おおおおお!」


自分で驚いた。


エルネが笑う。


「魔王より、よっぽど見込みが早いわい」


「なにぃ!」


ミュルラスが振り返る。


「じじい。西まで送らんぞ」


「ほっほー」


「それをやめろ!」


ノエルは、

ミュルラスの周りを見る。


「でも、君の膜はすごいね」


「そうだろ?」


「太くて、強そう」


「……」


ミュルラスの機嫌が、

少し戻った。


結局、

魔虫避けは買うことになった。


そしてノエルは、

魔法・魔術防御 Lv.2 を習得した。



「そろそろ行くぞ」


ミュルラスは、

地図を取り出した。


「……」


動きが止まった。


「どうしたの?」


「……なぜだ」


「なにが?」


ミュルラスが、地図を睨む。


「南に進んでいる」


「え?」


ノエルも、地図を見る。


「さっきの岩のところから、そのまま来たよね?」


「ああ」


「西に向かってたよね?」


「ああ」


エルネが、地図を覗き込む。


「なるほど」


「なんだ」


「この辺りは、何かおかしいのう」


「……」


ミュルラスは、地図を睨んだ。


「なら、地図を広げながら歩けばいい」


「ずっと?」


「そうだ」


「歩きにくくない?」


「問題ない」


その時、

森の奥から、三頭の魔獣が現れた。


白い身体。

牛のようにも、馬のようにも見える。

けれど、表面には毛がなく、つるりとしている。


三頭並んで、

のんびり歩いてくる。


ミュルラスが、手を上げた。


「おい」


三頭が止まる。


「俺たちを乗せろ」


「きみ!」


ノエルが、すぐに止めた。


「……」


ミュルラスは、少し考えた。


「あ」


空間へ手を入れる。


「肉巻きをやる」


三頭の耳が、ぴくりと動いた。


「少し乗せろ」


「最初からそう言ってよ」


「言っただろ」


「最初は命令だったよ」


エルネが、白い魔獣の背を撫でる。


「ポーブじゃな」


「ポーブ?」


「この辺りにいる魔獣じゃ」


三人は、

それぞれ一頭ずつ乗った。


ミュルラスが、先頭のポーブに言う。


「西だ」


ポーブが、歩き出す。


「西へ行けよ」


三頭は、

森の中を進んでいった。


*


しばらくして、

木々の向こうに、

小さな村が見えてきた。


「着いた?」


ノエルが、ポーブから降りる。


ミュルラスは、約束通り肉巻きを渡した。


三頭は嬉しそうに食べると、

森へ戻っていった。


「さて」


ミュルラスが、地図を広げる。


「……」


「どうしたの?」


「……」


「ミュルラス?」


ノエルとエルネが、地図を覗き込む。


「ええええええ!」


地図に示された現在地。

そこには、

「ゾゾルンデ村」

と書かれていた。


「ここ、どこ?」


「知らん!」


ミュルラスが、地図を広げ直す。


さっきまでいた岩場。

西へ向かったはずだった。


ところが。

現在地は、

そこからほぼ真北。


「……北に来てる」


「でも、ポーブに西って言ったよね?」


「言った!」


「三頭とも?」


「言った!」


エルネが、髭を撫でた。


「ほっほー」


「何が、ほっほーだ!」


ミュルラスは、空を見る。


もう、日が傾き始めていた。


ノエルが、村を見る。


「どうする?」


「……」


ミュルラスは、村の入口を見た。


小さな家々。

煙突から、煙が上がっている。


その中に、

「宿屋」と書かれた看板があった。


ミュルラスの目が、輝いた。


「泊まるぞ」


「やっぱり」


「勇者は宿屋に泊まるからな」


「まだ勇者やってるの?」


「当たり前だ」


エルネが、杖をついて歩き出す。


「では、さっそく行くとするかの」


「じじい」


「なんじゃ」


「今日は一部屋だぞ」


「なぜじゃ」


「金がもったいない」


ノエルが、ミュルラスを見る。


「宝物庫、全部持って帰ったよね?」


「……」


「ものすごいお金持ちじゃない?」


「それとこれは別だ」


三人は、

ゾゾルンデ村へ入っていった。


西へ向かっていたはずなのに、

なぜか、北にある村へ。


まだ誰も、

それを、

それほど深刻には考えていなかった。


à suivre…



ノエルは、新しい防御魔法を習得しました。


魔虫避けも、

ちゃんと買いました。笑


そして、西を目指したはずの三人が辿り着いたのは、

北にあるゾゾルンデ村。


魔界の方角は、いったいどうなっているのでしょう。


次回へ続きます。

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