第29話 みつけた
古代龍を倒した、その先へ。
傷も泥もそのままに、
ミュルラスはノエルを探します。
たどり着いた場所で、
彼を待っていたものは――。
Je t’ai retrouvé
ミュルラスは、
身なりを整えることさえ忘れて先へ進んだ。
破れた服。
泥と埃にまみれた髪。
頬には、
まだ血が残っている。
そんなことは、
どうでもよかった。
こんなものがいるダンジョンで、
ノエルは無事なのか。
倒れた古代龍の向こう、
細い通路を抜けると、
また扉があった。
「……」
ミュルラスは立ち止まった。
扉には、
鍵穴が三つ。
「じじい」
「まあ、ここは老人に任せておけ」
エルネが前へ出た。
細い杖の先を、
一つ目の鍵穴へ当てる。
何やら小さく唱えた。
ガチャ。
二つ目。
ガチャ。
三つ目。
ガチャ。
「開いたぞ」
「最初からやれ」
「年寄りにも見せ場というものがある」
ミュルラスは扉へ手をかけた。
重い。
力を込める。
ゴゴゴ……。
ようやく、
細い隙間ができた。
その隙間から、
眩しい光が差した。
「なんだ?」
「ほっほー」
「それやめろ」
さらに押す。
光が広がる。
そして、
二人は、中へ入った。
「…………」
金。
銀。
宝石。
古い魔具。
見たこともない装飾品。
巨大な部屋いっぱいに、
金銀財宝が積み上がっていた。
「宝物庫……?」
ミュルラスは、右手を見る。
「……!」
指輪の光が、
消えていた。
「おかしい」
「どうした?」
「反応がない」
さっきまで、
確かに光っていた。
この先に、
ノエルがいると示していた。
それなのに。
「ノエル!」
声が響く。
「ノエル!」
返事はない。
ミュルラスは、財宝の間を歩いた。
一周。
何もない。
もう一周。
やはり、
財宝しかない。
「……どこだ」
その時。
ガチャ、
ガチャガチャ。
何かが動いた。
ミュルラスが身構える。
財宝の山の隅。
金貨が、
ぱらぱらと崩れる。
その奥から、
小さなものが出てきた。
茶色い魔獣。
丸い身体。
短い脚。
つぶらな目。
「……」
ミュルラスは眉を寄せた。
「なんだ、お前」
魔獣が、
じっとこちらを見る。
「ここの守りか?」
一歩、近づこうとした。
その時、
「おおおおおお!」
背後から、エルネの声。
「なんだ!」
振り返る。
エルネが、
高価そうな古いローブを両手で持ち上げていた。
「これじゃ!」
目を輝かせている。
「これぞ探しておったものじゃ!」
「……おい」
「まだ残っておったか!」
「じじい」
「なんじゃ?」
「こんな時に何をやってる」
ミュルラスが近づく。
「寄越せ」
「嫌じゃ」
「財宝に目が眩んだか。浅ましいぞ!」
「これはわしの――」
ミュルラスが、
ローブを取り上げようとした。
その瞬間、
茶色い魔獣が走った。
「ぶっ!」
二人の間へ飛び込む。
そして、
エルネの前に立った。
「ぶっぶ!」
「……」
小さな身体で、
エルネを庇っている。
ミュルラスが、動きを止めた。
「お前」
魔獣が見上げる。
怖いはずなのに、
逃げない。
エルネの前から、退こうとしない。
その目。
ミュルラスは、
何度も見ていた。
自分より先に、
誰かのことを心配する時の目。
ベルサイユでも。
森でも。
いつも。
「……ノエル?」
魔獣の耳が、
ぴくりと動いた。
「ほっほー」
「ほっほーじゃない」
ミュルラスは、
その場にしゃがんだ。
「ノエルだろ?」
「ぶっぶー」
「……」
近くで見る。
やっぱり。
「ノエルなら……」
首を見る。
何もない。
「ペンダント」
ない。
ミュルラスは、
一瞬黙った。
けれど、
すぐに首を振った。
「いや」
もういい、
そんなもの。
なくても。
「こいつはノエルだ」
à suivre…
姿が変わっても、
大切なものは変わらない。
ミュルラスは、ようやくノエルを見つけました。
けれど、元の姿に戻す方法は、
まだ分かりません。




