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第23話 遺跡の下


竜巻に飛ばされ、

見知らぬ森へ辿り着いた三人。


ようやく城へ帰ろうとした、その時。

ノエルが不思議な匂いに気づきます。



Sous les ruines


森の中は、

さっきまでの荒野が嘘のように静かだった。


ミュルラスは、

地図をもう一度確かめた。


「……ずいぶん戻されたな」


「うん。西へ向かってたのにね」


「ああ」


ミュルラスは、

空を見上げた。


木々の隙間から、

暮れかけた空が見える。


「仕方ない。今日は城に戻るぞ」


「うん」


ノエルは、

自分の服を見下ろした。

砂だらけだった。


髪にも、

まだ細かな砂が残っている。


「お風呂入りたい」


「俺もだ」


エルネが笑った。


「ほっほ。わしも入りたいのう」


「じじいは後だ」


「年寄りを労らんか」


「城に着いたら好きに入れ」


ミュルラスが、地図を閉じる。


その時だった。


「……あれ?」


ノエルが、振り返った。


「どうした」


「何か、匂う」


鼻を、すん、と鳴らす。


もう一度。


「……なんだろう」


「何の匂いだ?」


「わからない」


ノエルは、森の奥を見た。


「初めて嗅ぐ匂い」


少し歩く。


すん。


また少し。


「すごく、いい匂い」


「おい、ノエル」


返事をせず、ノエルは匂いを追った。


「こっち……」


一歩。


そして、


「わあああっ!」


声が、突然、地面の下へ消えた。


「ノエル!」


ミュルラスが振り返る。


いない。


さっきまでいた場所に、ノエルの姿がなかった。


駆け寄る。


地面に、ぽっかりと穴が開いていた。


「なんだ、これは」


穴の中を覗く。


暗い。

底が見えない。


「落ちたのか?」


ミュルラスは、すぐに地図を開いた。


現在地を確認する。

変わっていない。


地下にも、何も記されていない。


「……なんだ、ここ」


穴へ向かって叫ぶ。


「ノエル!」


返事はない。


「ノエル!」


静寂。


その時、

右手の黒い指輪が、淡く光った。


「……?」


ミュルラスは、指輪を見る。


そして、エルネを振り返った。


「じじい」


「なんじゃ」


「ここを飛び降りるのは、お前には無理だろ」


空間から、ブランケットを取り出す。


ランタン。

飲み物。

パン。


まとめてエルネへ渡した。


「ここで待ってろ」


「いや」


エルネは、受け取った荷物を見下ろした。


「わしも行こう」


「は?」


「長く生きた老いぼれじゃ。

こういう時は、何か役に立つかもしれん」


穴を覗く。


「抱えて飛び降りてくだされ」


ミュルラスは、しばらくエルネを見た。


「……」


確かに。


このじじい、

何か知っているのか。


「足手まといになったら、置いていくぞ」


「ほっほ。承知した」


ミュルラスは、

エルネを両腕で抱え上げた。


「では行くぞ」


「頼んだぞい」


地面を蹴る。


二人の身体が、暗闇へ落ちていった。


*


深い。


思った以上に、深い穴だった。


やがて、

石の床へ、ミュルラスが降り立つ。


エルネを下ろす。


「ノエル!」


声が、暗闇へ響く。


ミュルラスは、光を出した。


古い石の床。

石の壁。

何もない。


「……いない」


どこかで、

痛い、痛い、と倒れていると思っていた。


だが、ノエルの姿はなかった。


血もない。

荷物もない。


そして、

通路さえ、見当たらない。


「おかしい」


ミュルラスが、周囲を見回す。


「ここに落ちたはずだ」


「ほほう」


エルネが、石壁へ顔を近づけた。


「なんだ」


「ここは、ダンジョンじゃな」


「ダンジョン?」


ミュルラスの目が鋭くなる。


「どこかに隠し通路があるのか」


返事を待たず、壁へ手を向ける。


「なら全部――」


「まあまあ」


エルネが止めた。


「その前に、ほれ」


「なんだ」


「おぬしの指」


ミュルラスが見る。

黒い指輪が、

さっきより強く光っていた。


「……」


「ノエル」


そう口にした瞬間。


右手が、わずかに前へ引かれた。


「……なんだ?」


もう一度。

今度は強く念じる。


ノエル。

どこだ。


指輪が光る。


そして、

右手が、すうっと前へ引かれた。


「……こっちか」


「ほっほー」


ミュルラスが、エルネを見る。


「なんだ」


「いやいや」


「何を知ってる」


「何も知らんよ」


エルネは、楽しそうに髭を撫でた。


「面白い指輪じゃと思っての」


「……」


ミュルラスは、前方の壁を睨んだ。


「よし」


片手を上げる。


魔力が集まる。


「全部、破壊してやる」


「待て待て待て」


エルネが、慌ててその腕にしがみついた。


「なんだ!」


「ここでそんなものを放ったら、ノエルまで巻き添えになるぞ」


「……」


魔力が、消えた。


「それから」


エルネが、足元を指した。


「左。気をつけた方がよかろう」


「左?」


ミュルラスは、ふん、と鼻を鳴らした。


そして、

わざと大きく、左へ一歩踏み出した。


ガチャン。


「!」


背後から、巨大な矢が飛んできた。


ミュルラスは、身体をひねる。


矢が、頬の横を通り過ぎた。

石壁へ突き刺さる。


「ほっほー」


エルネが笑った。


「おぬしも若いのう」


「……」


「若いというのは、命知らずでええの」


「知ってたぞ」


「ほう?」


「試しただけだ」


「ほっほー。負けず嫌いじゃの」


「うるさい」


「まあ、気をつけることじゃ」


エルネは、

杖をついて歩き出した。


「ノエルもじゃが、

おぬしに何かあれば、ノエルが悲しむぞ」


ミュルラスは、

一瞬だけ黙った。


「じじいに言われなくても、分かってる」


「ならばよろしい」


エルネは、暗闇の向こうを見る。


「早く見つけんとな」


「当たり前だ」


「ここは、いろいろと厄介そうじゃ」


少し考えて、


「どうじゃ。ここはひとつ、協力せんか?」


「ふん」


ミュルラスは、腕を組んだ。


「じじいの力など借りなくても――」


一度、エルネを見る。


「……まあ、仕方ない」


「ほう」


「お前がそこまで言うなら、使ってやる」


「ほっほ。ありがたいことじゃ」


「で、どうする」


「まずは、ここからじゃな」


エルネは、指輪を見る。


「それは、まっすぐを示しておるようじゃ」


「ああ」


「ならば、まっすぐ進む」


「壁だぞ」


「その前に」


エルネが、ミュルラスを見る。


「おぬし、自分の身体の周りに、薄い膜を張れるか?」


「なんだそれは」


「物理的な攻撃なら、おぬしほどの力があれば問題ない」


杖で、石床を軽く叩く。


「だが、魔術的な攻撃は、力だけでは防げぬ」


「……」


「ここから先の敵は、力ではなく、知恵じゃ」


à suivre…



ノエルを探して、

地下へ降りたミュルラスとエルネ。


力で突破しようとする魔王に、

老人は、少し違う方法を教えようとしているようです。


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