第21話 彷徨う荒野
西へ向かった三人。
降り立ったのは、
昼も夜も分からない、不思議な荒野でした。
Les terres errantes
三人が降り立った場所は。
暗かった。
「……あれ?」
ノエルは、
空を見上げた。
「さっき、
城を出た時は朝だったよね?」
「そうだな」
「じゃあ、
どうしてここは暗いの?」
夜、
とも違う。
曇っている、
とも違う。
初めて見る、
空の色だった。
灰色とも、
紫ともつかない。
光が、どこか遠い。
「この辺りはの」
老人が、
空を見上げる。
「彷徨う呪いに、覆われておる」
「彷徨う呪い?」
「ずっと、こうじゃ」
「夜ってこと?」
「いや」
老人は、
首を振った。
「魂が、空へ行けんのじゃ」
「……そうなの?」
ノエルも、
空を見る。
暗い空。
何かがいるようには、
見えない。
けれど、
なんとなく、息苦しかった。
「あ」
ノエルは、
老人を見る。
「そういえば、体は大丈夫?」
「大丈夫じゃ」
「ほんと?」
「ほっほ。心配性じゃの」
「だって、二日前まで倒れてたから」
それから、
ノエルは、気がついた。
「そうだ」
「なんじゃ?」
「おじいさんの名前、なんていうの?」
老人が、ノエルを見る。
「僕、ノエル」
「……」
ほんの少し、
間があった。
「エルネディアスと申す」
「エルネディアス……」
ノエルは、繰り返す。
「エルネ、ディ……」
一度、
口を閉じた。
「……エルネって、呼んでいい?」
老人が、
笑った。
「もちろんじゃ」
「じゃあ、エルネ」
「ふん」
前から、声。
「ノエル。
じじい。行くぞ」
「ちょっと待ってよ」
*
荒れた大地。
枯れた木々。
時折、
強い風が、吹き抜けていく。
ミュルラスは、
どんどん先へ進んでいた。
「ねえ、待ってよ!」
振り返らない。
「エルネに、合わせてあげようよ!」
やっぱり。
振り返らない。
「まったく……」
ノエルは、
エルネの腕を支えた。
「ゆっくり行こう」
「すまんの」
「大丈夫」
少しずつ、進む。
その時、
「……ん?」
ノエルが、
鼻を動かした。
すん。
すん。
「何か、
匂いがする」
「匂い?」
「うん」
立ち止まる。
風じゃない。
もっと、
下。
「土の方……」
しゃがむ。
「何かいる?」
エルネも、
地面を見る。
「おお」
「いるの?」
「土の中を這い回る、小さな魔獣じゃ」
「魔獣」
ノエルは、
少し考える。
「ねえ」
「なんじゃ?」
「この子、エルネを乗せてくれないかな」
「どうじゃろな」
ノエルは、
地面へ顔を近づけた。
「ねえ」
土へ向かって、
話しかける。
「ちょっと、お願いしていい?」
返事はない。
「蜂蜜あげるから」
エルネが、
目を細める。
ノエルは、
指先に蜂蜜をつけた。
「荒野を越えるところまででいいから。
エルネを乗せてあげてくれる?」
じっと、待つ。
土が、
もこ。
少し、動いた。
「あ」
茶色いものが、
顔を出した。
大人の靴くらいの、
小さな魔獣。
丸い鼻。
短い脚。
土だらけの毛。
「かわいい」
もう一つ。
少し離れたところから、
もこ。
「二匹?」
「来るぞ」
エルネが、
笑う。
「こいつらは、
いつも番で行動しておるからの」
「ほんと?」
二匹が、
並んで近づいてくる。
「名前は?」
「トルモじゃ」
「トルモ」
ノエルは、
手を差し出した。
「おいで」
ぺろ。
一匹。
ぺろ。
もう一匹。
「蜂蜜、好きなんだね」
二匹のトルモは、
ノエルの指を、綺麗に舐めた。
「じゃあ、お願い」
エルネを、
ゆっくり立たせる。
片足ずつ、
トルモの背へ。
「大丈夫?」
「おお」
二匹が、
動き出した。
すーっ。
「すごい!」
まるで。
土の上を、滑っている。
ノエルは、
隣を歩く。
「いい匂いがするね」
「ほう」
エルネが、
トルモを見る。
「これが、いい匂いなのかの?」
「うん」
ノエルは、
もう一度鼻を動かす。
「なんかね」
湿った土。
乾いた草。
それから、
少しだけ、甘い匂い。
「土の、優しい匂いがする」
「ほう……」
「あ」
ノエルは、
地面を見る。
「そうだ」
手を、
土へ向ける。
「テランテーラ」
ざらざらしていた地面が。
少しずつ。
滑らかになる。
二匹のトルモが、すい。
さっきより、
速く進んだ。
「わあ」
ノエルが、
笑う。
「動きやすくなった?」
トルモが、
小さく鼻を鳴らした。
「ほう」
エルネが、
ノエルを見る。
「お前さん、魔法が使えるのか?」
「うん。少しだけ」
「土魔法、Lv.1じゃの」
「……」
ノエルが、
エルネを見る。
「分かるの?」
「ほっほ」
エルネは、笑った。
「じじい!
楽してるなら、早く来い!」
遠くから、
ミュルラスの声。
「ノエルも、早くしろ!」
「今行くよ!」
「急げ!」
「なんで?」
ミュルラスが、
空を見上げた。
「そろそろ、嵐が来る」
「嵐?」
ノエルも、
空を見る。
さっきまでとは、
風の音が違う。
「嵐が来たら、どうなるの?」
「吹き飛ばされる」
「……え?」
ごう。
強い風が、
三人の間を抜けていった。
「それ、早く言ってよ!」
三人は、急いだ。
トルモも、
速度を上げる。
荒野の向こう。
大きな岩場が、
見えてきた。
ミュルラスが、
指を差す。
「あそこまで行くぞ」
「うん!」
風が、また吹いた。
さっきよりも、
強い。
暗い空の下。
砂が、
舞い始めていた。
à suivre…
荒野で出会った、
小さな魔獣トルモ。
どうやら、エルネの旅にも
心強い仲間ができたようです。
けれど、空模様は少し怪しくなってきました。




