第15話 一人ではない夜
魔王城の最上階。
そこには、広すぎるベッドと、
不思議な地図がありました。
Une nuit à deux
寝室は、
魔王城の最上階にあった。
「……広い」
天井は、
やたらに高い。
窓は、
やたらに多い。
そして、
「これ、ベッド?」
「ああ」
舞台みたいだった。
「何人寝るの?」
「俺だ」
「……一人で?」
「ああ」
ノエルは、寝転んでみた。
広い。
ものすごく、
広い。
少しくらい転がっても、
端まで届きそうにない。
やがて、
ミュルラスも隣にやってきた。
ノエルは、
仰向けになる。
「……あれ?」
天蓋の内側、
細かな線が、無数に描かれている。
山。
川。
海。
知らない形。
「地図?」
「ああ」
「すごいね」
ノエルは、
目で線を追う。
「これ、君が行ったところ?」
「いや」
「じゃあ、何の地図?」
返事がない。
「ミュルラス?」
少しして、
「お前」
「ん?」
「寝ている時に、
遠い国へ行くことはあるか?」
「……?」
ノエルは、
横を向いた。
「遠い国?」
「ああ」
「夢の中で?」
「多分な」
「ミュルラスは、行くの?」
「ああ。時々」
ミュルラスは、
天蓋を見る。
「二千年の間に、
寝ている時に行った国だ」
「……」
ノエルは、
もう一度、頭上を見る。
「これ、全部?」
「ああ」
「……写真、撮っていい?」
「写真?」
「携帯で」
「ああ。写メってやつだな」
「よく覚えてるね」
携帯を取り出す。
カシャ。
画面を見る。
少し暗い。
でも、
それも、悪くなかった。
「ねえ」
「なんだ」
「ここに来て、どのくらいなの?」
「そうだなあ」
ミュルラスが、考える。
「分からん」
「分からないんだ」
「ああ」
少しして、
「ただ、
この部屋を使うようになって、千五百年くらいだな」
「……千五百年」
ノエルは、
広いベッドを見る。
「ずっと、一人で寝てたの?」
「ああ」
そして。
何かを思い出したように、
ミュルラスが言った。
「そういえば」
「ん?」
「人間界で、お前と狭いベッドに寝ただろ」
「うん」
「あれが、
誰かと寝たのは初めてだった」
「……」
「ここでは、ずっと一人だった」
ノエルは、
何も言わなかった。
千五百年。
この広いベッドで、
ずっと、
一人。
そして、
眠ると、知らない国へ行く。
しばらくして、
静かな寝息が、聞こえた。
「……」
見ると、
ミュルラスは、
もう眠っていた。
早い。
ノエルは、
また天井を見る。
無数の線。
知らない国。
どこから、
始まったんだろう。
今夜も、
ミュルラスは、どこかへ行くのだろうか。
その時、
手首に、何かが触れた。
「……」
ミュルラスの手。
眠ったまま、
ノエルの手首を、そっと掴んでいる。
ノエルは、
その手を見た。
それから、
もう一度、天蓋の地図を見る。
今夜は、一人じゃない。
そっと、
目を閉じた。
à suivre…
二千年の間に描かれた、知らない国々の地図。
今夜は、その下で二人が眠ります。




