第22話 小さなお守り
「……あった」
何も見えなかったはずの魔王が、
土の中から見つけたもの。
それは.....
Le petit talisman
「……あった」
「何が?」
魔王の掌の上に、
小さな欠片があった。
白とも灰色ともつかない。
ほんの数ミリほどの、硬いもの。
ノエルも、しゃがみ込んだ。
「石?」
「違う」
魔王は、
欠片を指先でつまんだ。
「骨?」
「それも違う」
「じゃあ、何?」
「待て」
魔王の指先に、
淡い光が灯った。
黒でも、
炎でもない。
ごく薄い、金色の光だった。
欠片の周囲に、
細い線が伸びていく。
失われた部分を、辿るように。
少しずつ、
形が現れる。
細く、
わずかに湾曲している。
先端は尖り、
根元は太い。
ノエルは、その形を見つめた。
「……これ」
「見覚えがあるか?」
「たぶん」
ノエルは、目を細めた。
「さっき見たお守り、こんな形だった気がする」
魔王は、
掌の上に浮かぶ形を、しばらく眺めた。
「狼だな」
「狼?」
「牙だ」
ノエルが、もう一度見る。
「これが?」
「ああ」
「なんで分かるの?」
「形を見れば分かる」
「普通は分からないと思う」
「俺は分かる」
「.....」
魔王は、
再現された牙を、指先で少し動かした。
「首から下げていたんだな」
「うん」
「なら、守りだろう」
ノエルは、魔王を見る。
「狼の牙がお守りになるの?」
「珍しくはない」
「知ってるの?」
「似たものならな」
魔王は、小さな牙を眺めた。
「牙や角、爪を身につける者はいる」
ノエルは、
一瞬、黙った。
そして、
自分のポケットを見る。
魔王も、その視線を追った。
「そういえば」
「……なに」
「持っているか?」
「何を」
「俺の爪」
「持ってるよ」
「そうか」
魔王は、
満足そうに頷いた。
「お守りにするといい」
「しないよ」
「なぜだ」
「爪だから」
「狼の牙はいいのか」
「僕がつけてるわけじゃないでしょ」
「俺の方が狼より強いぞ」
「そういう問題じゃないって」
魔王は、納得していない顔をした。
ノエルは笑った。
やがて、
魔王の掌の光が消えた。
再現されていた牙も、一緒に消える。
残ったのは、
数ミリほどの、古い欠片だけだった。
ノエルは、それを見つめた。
「本当に、あったんだね」
「何が」
「さっき見たもの」
魔王が、ノエルを見る。
「疑っていたのか?」
「そうじゃないけど」
ノエルは、少し考えた。
「君には、あの親子は見えなかったんだよね」
「ああ」
「声も?」
「聞こえん」
「そっか」
魔王は、掌の欠片を見る。
「だが、これはある」
「うん」
ノエルは、
もう一度、何もない街路を見た。
春の光の中を、
人々が歩いている。
あの土の道も、
小さな家も、
もう見えない。
「怖いものから、守ってくれるって言ってた」
「母親が?」
「うん」
「効いたのか?」
「分からない」
魔王は、少し考えた。
「効いたかもしれん」
「分かるの?」
「知らん」
「じゃあ、なんで言ったの」
「母親がそう言ったんだろう」
「うん」
「なら、あの子は信じただろう」
ノエルは、
少しだけ笑った。
風が吹く。
若い葉が、
古い壁の上で揺れていた。
「帰る?」
「ああ」
魔王は立ち上がった。
「ゲームの続きがある」
「結局それなんだ」
「まだ森を抜けていない」
二人は、
来た道を歩き始めた。
しばらくして、
ノエルが振り返る。
そこには、
春のヴェルサイユがあるだけだった。
けれど、
もう一度だけ、
あの声を思い出した。
――なくさないでね、ギヨーム。
ノエルは、
ポケットの上から、
小さな爪の欠片に触れた。
そして、
何も言わずに歩き出した。
à suivre…
小さくても、
守ってくれるものはある。
ノエルのポケットにも、
ひとつ。




