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第4話 宵山

 

今日は、

ノエルと夏祭りへ出かけます。



Yoiyama


こんこんちきちん。

こんちきちん……


朝、

ノエルは秘密基地へ向かった。


昨日書き写したページを開く。

今日も読めない。


ノエルは新しいページを開き、ノートへ一文字ずつ丁寧に書き写していく。

書き終えると、静かに本を閉じた。


帰ろうとした、そのとき。


――こん。

木の実がひとつ落ちた。


ノエルは立ち止まる。


さらさら……

風が木の葉を揺らす。


ちゅん。

小さな鳥が鳴いた。


遠くでは、小川が静かに流れている。


昨日まで、聞こえていたはずなのに。

でも今日は、一つひとつが耳に届く。


森って、こんなに音があったんだ。


ノエルは少し嬉しくなって、ゆっくり家へ戻った。


家へ帰ると、お客様が来ていた。


「あっ。」


そうだ。

今日は祇園祭へ行く日だった。


お手伝いさんのマイさんが、浴衣を持って待っている。


「ノエル、今日はこれを着ましょう。」


紺色の浴衣だった。

白や銀で、小さな虫がたくさん描かれている。


「これ、なに?」


ノエルが尋ねる。


「トンボよ。」


「と……ん……ぼ?」


少し難しい日本語だった。

その時、隣にいた父が、静かに微笑んだ。


「C'est une libellule.」


そのフランス語を聞いた瞬間、不思議と胸が温かくなった。


もう一度浴衣を見る。

風が吹いた。

トンボが、ふわりと動いたような気がした。


夕方。


普段あまり人混みへ行かない父が、今日はそっと手をつないでくれた。

編集者の山岸さんが案内してくれる。


遠くから眺める祇園祭。

人でいっぱいだった。


こんこんちきちん。

こんちきちん……


笛。

鉦。

太鼓。


たくさんの音が重なっている。


それなのに、不思議だった。

一つひとつの音が、少しずつ聞き分けられる。


笛の高い音。

鉦の澄んだ音。


太鼓のゆっくりした響き。

その向こうで、人々の話し声。

笑い声。

子どもたちのはしゃぐ声。


目を閉じる。


遠い昔。

着物を着た人たちが、同じ音を聞きながら歩いている。

そんな景色が、ふと浮かんだ気がした。


目を開ける。


祭りは、今も続いている。

父の手は、温かかった。


「C'est une libellule.」


その言葉だけが、何度も心の中で優しく響いていた。


そして、その夜。

布団へ入ると、遠くでまだ祇園囃子が聞こえているような気がした。


こんこんちきちん。

こんちきちん……


ノエルは静かに目を閉じた。


つづく



 

次は、

どんな音が待っているのでしょう。


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