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第20話 リュミール


白い蝶が、

久しぶりにやってきました。



Le murmure de la lumière


初夏の森だった。


木々の間を吹き抜ける風はやさしく、

若葉が光を揺らしている。


一匹の白い蝶が、

ノエルの前をゆっくりと飛んでいた。


「久しぶりだね。」


ノエルは微笑みながら、

そのあとを歩く。


蝶は、

森の奥へ、

森の奥へと進んでいく。


やがて、

木漏れ日が降り注ぐ小さな広場へ着いた。


白い蝶は、

光の中で静かに羽ばたく。


羽ばたくたびに、

羽からこぼれ落ちたような小さな光の粒が、

空気の中をゆっくり漂っていた。


ノエルは、

そっと手を伸ばす。


光は逃げなかった。


ふわりと掌へ集まり、

小さな灯となる。


「あたたかい……。」


そのぬくもりを感じながら、

ノエルは辺りを見回した。


「今日は、ずいぶん奥まで来たな。」


その時だった。


さらさら、と。


どこからか、

静かな水音が聞こえた。


音をたどって歩くと、

木々の向こうに小さな泉が現れる。


透き通る水。


静かな水面。


「……。」


ノエルは足を止めた。


どこかで見たことがある。


しばらく見つめて、

小さく呟いた。


「……夢だ。」



ノエルは両手で水をすくう。


白い蝶が、

そっと指先へ舞い降りた。


そのまま、

掌の水を静かに飲み始める。


澄んだ泉。


白く輝く蝶。


木漏れ日。


「きれい……。」


思わず笑みがこぼれた。


「森の神様みたい。」


その瞬間。


風とも違う。


水音とも違う。


誰かの囁きが、

木漏れ日の向こうから聞こえた。


「リュミール。」


ノエルは顔を上げる。


「え?」


もう一度。


「リュミール。」


「……リュミール。」


ノエルも、

そっとその言葉を口にした。


すると。


泉の水面が、

ゆっくりと虹色に輝き始めた。


光は水の上を渡り、

やがて静かに消えていく。




山を下りると、

ノエルは古木の洞へ向かった。


絵本を開く。


また一ページ、

文字が読めるようになっていた。


リュミール。


光の魔法。


繊細な挿絵は、

虹色の光をまとっている。


小さな文字が並んでいた。


希望。

ひかり。

道が見える。


ノエルは、

静かにその文字をなぞる。


「道……。」


ふと、

ベルサイユで見た母のアトリエが浮かんだ。


ママンはいない。


それでも。

何も残っていないわけじゃない。


胸の奥に、

小さな灯がともる。


「そうか。」


「これが……光なんだ。」


もしママンが隣にいたら、

きっと笑って言うだろう。


「素敵じゃない?」


ノエルは、

もう一度、小さく呟いた。


「リュミール。」


木漏れ日の向こうへ、

白い蝶が飛んでいく。


その小さな光を見送りながら、

ノエルは静かに微笑んだ。


優しい魔法使いになろう。


つづく



また、

木漏れ日の森でお会いしましょう。


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