第18話 新しいページ
ノエルは十一歳になりました。
今日は、新しいページを開きます。
Une nouvelle page
ベルサイユから帰ってきた日から、
ノエルは、よく勉強するようになった。
理由は、とても単純だった。
ママンが暮らしていた部屋で、もう一度、一緒に暮らしたい。
そのためには、フランスの大学へ行く。
まだ十一歳なのに、
そんなことを考えていた。
父は笑った。
「ずいぶん先の話だね。」
「うん。」
「でも、きっと、あっという間だよ。」
ノエルは本気だった。
朝は学校へ行き、
帰ると宿題を済ませる。
そのあと古木へ向かい、魔法を学ぶ。
夜は父の書斎で本を読む。
それが毎日の暮らしになった。
理科も数学も好きだった。
植物の名前。
岩石の名前。
星の名前。
覚えることは、不思議と苦にならなかった。
むしろ。
名前を知るたびに、
世界は少しずつ広くなっていく気がした。
担任の先生は、ある日、父へ言った。
「ノエルくんは、少し特別です。」
「学年の内容を、ほとんど理解しています。」
「飛び級も、一度考えてみませんか。」
父は驚いた。
家へ帰ると、夕食のあとで聞いてみた。
「ノエル。」
「もし中学校へ行けると言われたら、どうする?」
ノエルは少し考えたあと、
「行く。」
とだけ答えた。
「理由を聞いてもいい?」
「早くベルサイユへ行きたいから。」
父は静かに笑う。
やっぱり、そうか。
秋。
ノエルは十一歳で、
中学校へ進むことになった。
身長も、いつの間にか、ずいぶん伸びていた。
古木の洞穴へ入るたびに、
「ちょっと狭くなったな。」
と、小さく笑う。
その日も、いつものように絵本を開いた。
まだ読めない文字を、ノートへ一行ずつ書き写していく。
ふと。
その下の絵を見つめていると、
「……花、かな。」
「シュル。」
「これ、花?」
シュルは、ノートを覗き込むと、目を丸くした。
「な、なんと。」
「ぼっちゃま、すごいですね。」
「よく、お分かりになりました。」
「やっぱり花なんだ。」
ノエルは、もう一度絵本の挿絵を見る。
花びらのようにも見える。
けれど、葉にも見える。
木にも見える。
「どんな魔法なんだろう。」
小さく呟く。
「それは、ご自身の目で、お確かめくださいませ。」
シュルは、いつものように胸に手を当て、一礼した。
「それでは。」
「ご武運を。」
ノエルは、くすっと笑う。
「魔法の修行なのに、いつも戦いみたい。」
「ぼっちゃまにとっては、
毎回、新しい世界との出会いでございます。」
「では。」
「行ってらっしゃいませ。」
ノエルは、そっと目を閉じた。
深く息を吸う。
風の匂い。
木の匂い。
土の匂い。
そのすべてが、ゆっくりと遠ざかっていく。
次の瞬間。
どすん。
「いたた……。」
思わず尻もちをついた。
「ここは……?」
辺りは真っ暗だった。
つづく
さて、
今度はどんな庭でしょう。




