↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/94

第16話 イフ、リラン


今日は、

新しい魔法との出会いです。



Le murmure du feu


季節は、少しずつ冬へと移り変わっていた。


朝はまだ暗く、

森へ続く道には霜が降りている。


しゃこ。

しゃこ。


踏みしめるたび、

小さな音が静かな森に響いた。


夏とは違う。


木々の葉は落ち、

風の匂いも、音も変わっていた。


ザザッ。


何かが茂みを駆け抜ける。


そのあと、

森はしんと静まり返った。


「おはよう。」


ノエルは小さくつぶやき、

いつもの古木へ向かう。


一年前より少しだけ背が伸びたせいか、

木の穴へ入ろうとして、


ごつん。


「いたっ。」


「ふふっ。」


シュルが小さく笑った。


すぐに姿勢を正し、


「……コホン。

失礼いたしました、ぼっちゃま。」


そう言って、

深々と頭を下げる。


「背丈がお伸びになられましたね。

誠に喜ばしい限りでございます。」


ノエルは頭をさすりながら笑った。


木の穴の中は、

今日も不思議とほんのり暖かい。


絵本を開く。


新しいページだ。


ノエルはノートを取り出し、

いつものように一文字ずつ丁寧に書き写していく。


絵も。


細かな文字も。


見落とさないよう、

何度も見返しながら。


(今日はどんな夢を見るのかな。)


そう思った、その時だった。


ふっと視界が暗くなる。




気がつくと、

知らない場所に立っていた。


「え?」


真っ暗だった。


何も見えない。


「ここ……どこ?」


夢……?


「シュル?」


返事はない。


「シュルー!」


恐る恐る手を伸ばすと、

指先が何かに触れた。


「……はい、ぼっちゃま。」


小さな声が聞こえる。


「本来、私は沈黙を守る役目です。」


少し間を置いて、


「お助けはできませんが、

一つだけ。」


「今まで身につけられたものを、お使いください。

きっと、それが次の魔法へと繋がります。」


「私は、

見守っております。」


静かになった。



夢じゃない。


ノエルは小さく息を吸う。


今まで覚えた魔法。


「シャル、シャラン。」


水。


「ゼフ、リラン。」


風。


「シュル、シュシュル。」


耳を澄ます魔法。


「……まずは。」


「シャル、シャラン。」


次の瞬間。


ゴォォォッ──


天井から、

滝のような水が降ってきた。


「うわあっ!」


一瞬で全身ずぶ濡れになる。


「すごい……。」


前より、

ずっとたくさん出ている。


「さ、寒い……。」


震えながら、

今度は風を呼ぶ。


「ゼフ、リラン!」


風が吹く。


びゅううう。


「さ、寒っ!」


服は少し揺れるだけ。


乾かない。


むしろ寒さが増した。


「うう……。」


歯が鳴る。


「シュル、シュシュル。」


耳を澄ます。




パチ。


パチパチ。


「……?」


もう一度。


「シュル、シュシュル。」


パチ。


パチパチ。


どこかで聞いた音。


(なんだろう……。)


寒い。


暖かいところへ行きたい。


暖炉……。


「あ。」


暖炉。


パチパチ。


火。


「火……。」


火の魔法?


耳を澄ませる。



イフ…

イフ…リ…ラン…




「イフ……。」


思わず口にする。


「イフ……リラン。」


その瞬間。


ぼっ。


目の前に炎が燃え上がった。


「わっ!」


思ったより大きい。


どうしよう。


暖かい。

でも、このままじゃ危ない。


「あ……そうだ。」


ノエルは手を前へ伸ばした。


「シャル、シャラン。」


でも、すぐに思いとどまる。


さっきは滝みたいに出た。

(あれじゃ、消しちゃう。)


少し考えてから、小さく笑う。


「水さん。」


「火と、お友だちだよね?」


「ほんの少しだけ、お願い。」


「シャル、シャラン。」


ぽたり。


小さな水滴が炎へ落ちる。


しゅっ。


炎は消えなかった。

少しだけ小さくなり、

ふんわりと、小さな灯火になった。


「よかった。」


その瞬間、

暗闇がゆっくりほどけていく。


気がつくと、

ノエルは古木の穴の中へ戻っていた。


絵本を見る。


さっきまで読めなかった文字が、

静かに光っていた。


イフ、リラン。


火の魔法だった。


つづく



また、

古木の下でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。