↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/89

第15話 風さん、お願い


今日は、

風が少しだけ応えてくれます。



Vent, je t’en prie


朝。


風の庭での修練を終え、

ノエルは古木の前へ戻ってきた。


深く息を吸う。


一年前には聞こえなかった風の音が、

今は少しだけ分かるようになっていた。


シュルは満足そうに頷く。


「今日で一年ですね。」


「風の庭で学ぶことは、ひとまず終わりです。」


「でも、魔法は試験に合格して終わるものではありません。」


「これからは、暮らしの中で育っていきます。」


ノエルは少し首をかしげる。


「暮らしの中で?」


「はい。」


「誰かのために使えた時、その魔法は本当の魔法になります。」


その時だった。


風が、ふっと向きを変える。


ノエルは顔を上げた。


風の音が、いつもと違う。


遠くから、

紙が舞うような音。


木の葉が慌ただしく鳴る。


そして、

どこか困ったような気配。


「……お父さん?」


ノエルは立ち上がる。


シュルも驚く。


「聞こえたんですか?」


ノエルはもう走り始めていた。


森を抜け、

坂道を駆け下りる。


家が見えた。


縁側では父が立ち上がり、

舞い上がる原稿を追いかけていた。


書きかけの原稿。

取材のメモ。

大切な資料。


風はいたずら好きのように、

庭いっぱいへ散らしていく。


「どうしよう……。」


ノエルは立ち止まり、


空を見上げた。


胸の奥から、

自然に言葉がこぼれる。


「お願い。」


「お父さんが困ってるの。」


「みんな、おうちへ帰してあげて。」


その瞬間。


風が、

ふわりとやさしくなった。


舞っていた紙が、


一枚、

また一枚と、


向きを変える。


縁側へ。


父の足元へ。


机の上へ。


まるで、

帰る場所を知っているように。


父は思わず手を止めた。


「……え?」


最後の一枚が、

そっと机に重なる。


庭は静かになった。


ノエルはほっと笑った。


「ありがとう。」


風が一度だけ、

木々を揺らした。


それは、

返事のようだった。


その様子を見つめていたシュルは、

しばらく言葉を失っていた。


「……そんな。」


「命令していません。」


「お願いしただけ……。」


小さく息をのみ、

ノエルを見る。


「ぼっちゃま。」


「風は、あなたを友達だと認めました。」


「レベル2です。」


ノエルは意味がよく分からず、

ただ風の匂いを吸い込む。


どこか、


少しだけ、

誇らしい匂いがした。


つづく



また、

風さんに会いに来てください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。