第14話 風の声
今日は、
風と過ごす一年です。
Le Chant du Vent
ゼフ、リラン。
ノエルは、ふわりと風に運ばれ、小さな丘の上へ降り立った。
丘の上には、小さな木の家が建っている。
「ぼっちゃま。」
シュルが胸ポケットから顔をのぞかせた。
「ようこそ、風の庭へ。」
ノエルは草原を見渡した。
風が吹くたび、
草が波のように揺れる。
鳥の声。
葉の音。
遠くで、
小川のせせらぎ。
「ここでは、何をするの?」
「風の声を聞くのでございます。」
「風の……声?」
「はい。」
「風は、いつも話しております。」
「耳ではなく、心で聞くのでございます。」
ノエルは目を閉じた。
風が頬をなでる。
髪が揺れる。
草の香りが流れていく。
けれど、
何も聞こえなかった。
「聞こえない。」
「それでよろしいのでございます。」
シュルは優しく笑った。
「聞こうとすることが、最初の一歩でございます。」
その日から。
ノエルは毎朝、
学校へ行く前に裏山へ向かった。
古木の前で目を閉じる。
ゼフ、リラン。
風の庭へ渡る。
風の中に立ち、
ただ耳を澄ます。
毎日。
何日も。
何十日も。
秋が深まり、
朝露が草を濡らした。
やがて木枯らしが吹き、
庭は白い雪に包まれた。
春になると、
若葉がやわらかな風に揺れ、
夏には、
青い空を渡る風が草原を駆け抜けた。
ノエルは、一日も休まなかった。
風の声を聞きたくて。
ただ、それだけを願いながら。
そして――
金木犀の香りが、
山の風に混じり始めた頃。
シュルが小さく頭を下げた。
「ぼっちゃま。」
「お誕生日、おめでとうございます。」
ノエルは少し驚いたように目を丸くする。
「もう、七歳?」
「はい。」
「風の庭で過ごした一年でございました。」
風が、そっと二人の間を吹き抜ける。
その風は、
ほんの少しだけ、
昨日までとは違って聞こえた。
つづく
また、
風の庭でお待ちしています。




