第13話 初めての庭
今日は、
シュルが修行へ案内してくれます。
Le Premier Jardin
朝。
ノエルは学校へ行く前に、いつものように裏山へ向かった。
古木の前へ着くと、胸ポケットから小さな声が聞こえる。
「ぼっちゃま、おはようございます。」
「おはよう、シュル。」
「それでは、本日も修行に参りましょう。」
「うん。」
ノエルは古木の前に立った。
「まずは耳を澄ませてください。」
ノエルは静かに目を閉じる。
「何が聞こえますか?」
「うーん……。」
少し考えてから答えた。
「鳥の声。」
「はい。」
「葉っぱが揺れる音。」
「はい。」
「遠くのお寺の鐘。」
「はい。」
シュルは小さくうなずいた。
「現在は、レベル1でございます。」
「まだ1なんだ。」
「これからでございます。」
シュルはそう言うと、小さな右手を差し出した。
「では、参りましょう。」
ノエルは笑って、その小さな手に自分の指先を重ねた。
その瞬間。
ふわりと光が二人を包む。
景色が白く溶け、
次の瞬間には、光がすっと消えた。
「ぼっちゃま。」
「着きましたよ。」
「目を開けてくださいませ。」
ノエルがゆっくり目を開ける。
そこには、
どこまでも続く草原が広がっていた。
空は青く、
やわらかな風が丘を渡っている。
遠くには、小さな木の小屋が一軒だけ建っていた。
「ここ……どこ?」
「修練の庭でございます。」
「修練の庭?」
「はい。」
シュルは胸を張る。
「魔法の絵本の中にございます。」
「絵本の中?」
「修行ごとに、さまざまな庭がございます。」
「ぼっちゃまの成長に合わせて、ご案内いたします。」
ノエルは辺りを見回した。
風が気持ちいい。
草も揺れる。
どこまでも静かだった。
「それでは。」
シュルは小屋を指さした。
「まずは、あちらまで参りましょう。」
「あそこ?」
「はい。」
「簡単そう。」
ノエルは笑って走り出した。
丘を駆け上がる。
風を切って走る。
けれど、
しばらく走っても、小屋は少しも近づかなかった。
「……あれ?」
もう一度走る。
まだ遠い。
「え?」
また走る。
それでも変わらない。
ノエルは立ち止まり、振り返った。
シュルはさっきと同じ場所で、静かに立っていた。
「シュル!」
「はい。」
「ぼく、ずっと走ってるのに。」
「小屋まで着かないよ。」
「本当にあるの?」
シュルはにっこり笑う。
「ぼっちゃま。」
「良いところにお気付きになりました。」
「普通に走っていては、たどり着けません。」
「え?」
「さて。」
「どうなさいますか。」
「どうするって……。」
その時だった。
さらり、と風が吹く。
気持ちいい。
風みたいに飛べたら、
すぐなのにな。
ノエルは、はっと顔を上げた。
「……風。」
昨日覚えた言葉が、胸の奥で光った。
「ゼフ、リラン。」
小さく唱える。
「ぼくを、あの小屋まで連れていける?」
風が、ふわりと笑った気がした。
つづく
また、
修練の庭でお会いしましょう。




