12話 小さな相棒
今日は、
ノエルに小さな仲間ができます。
Le Petit Compagnon
「ぼっちゃま。」
「ようやく、お会いできました!」
「私、ずっとお待ちしておりました!」
「だれ?」
ノエルは、小さな人影を見つめた。
「ぼくはノエル。」
「申し遅れました。」
小さな人影は、ノエルの膝の上で姿勢を正し、深々と頭を下げた。
黒い執事服に、白い手袋。
磨き上げられた小さな革靴まで履いている。
頭には、ブルーグレーの猫耳。
同じ色の尻尾が、静かに揺れていた。
金色の瞳が、まっすぐノエルを見つめている。
「私、ぼっちゃまの魔法の修行をお手伝いする、
護持者でございます。」
「護持者?」
「はい、ぼっちゃま。」
「耳を澄ます魔法をお使いになられましたので、これより私が、お供いたします。」
ノエルは、じっと護持者を見つめた。
「君の名前は?」
「私の、名前でございますか?」
護持者は首をかしげる。
「私には、名前はございません。」
「ないの?」
「はい。」
そのとき、護持者がノエルの膝から滑り落ちそうになった。
「シュルッ!」
小さな声を上げ、慌ててノエルの服をつかむ。
ノエルは笑った。
「シュル。」
「はい?」
「君、シュルって感じ。」
護持者は、もう一度首をかしげた。
「シュル……。」
「それが、私の名前でございますか?」
「うん。」
「今日からシュル。」
その瞬間、
小さな体から、淡い光がふわりと広がった。
シュルは自分の胸に手を当て、もう一度、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、ぼっちゃま。」
「ねえ、質問なんだけど、この本は、木に生えてるの?」
「持って帰ろうとしても、根っこがくっついてて、無理なんだ。」
シュルは小さくうなずいた。
「ぼっちゃま。」
「この本は、境界樹と一つになっております。」
「境界樹?」
「はい。」
「境界樹って、なあに?」
「世界と世界の間に立つ木でございます。」
ノエルは古木を見上げた。
「時折、向こうのものがこちらへ零れ落ちることがございます。」
「そのため、この本はここを離れることができません。」
ノエルは古木を見上げた。
「じゃあ、毎回来なきゃ。
「はい。」
「私がお供いたします。」
ブルーグレーの尻尾が、嬉しそうに一度だけ左右へ揺れた。
シュルは辺りを見回した。
「……はて。」
「ここは、魔界ではないようでございます。」
「ぼっちゃまも、こちらへいらしていたのですね。」
ノエルは笑ってうなずいた。
「うん。」
「ぼくもちょっと前に来たところなんだ。」
シュルも静かにうなずいた。
「ようこそ、お帰りくださいました。」
ブルーグレーの尻尾が、嬉しそうに一度だけ左右へ揺れた。
二人は少し違うことを話している。
それでも、不思議と会話は噛み合っていた。
日が落ちるのが、日に日に早くなる。
ノエルは胸ポケットにシュルを入れ、秘密基地をあとにした。
ポケットから、小さな猫耳が少しだけのぞいている。
この日から、
ノエルの毎日には、小さな相棒が加わった。
つづく
また、
二人に会いに来てください。




