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第10話 秋の遠足


今日は、

ノエルと秋の京都を歩きます。



L'excursion d'automne


「今日は遠足です。」


先生の声を聞いて、ノエルは少しだけ嬉しくなった。


行き先は、嵐山。

バスの中で、しおりを見ながら首をかしげる。


「嵐山って……」


「嵐のお山なのかな。」


隣のナンシーが笑った。


「違うよー。」


「そうなの?」


「たぶん。」


ノエルは窓の外を見た。


「でも、

風はいっぱい吹きそう。」


ナンシーも窓の外を見て、


「そうかも。」


と笑った。



「着いたよ。」


先生の声で、子どもたちが一斉に降りていく。


観光客で賑わう渡月橋。


川の向こうには、

山が赤や黄色に色づき始めていた。


風が吹く。


ノエルは、

橋の真ん中で立ち止まった。


「あ。」


何か聞こえた気がした。


昨日読めるようになった、

風と話す魔法。

もしかして。


「おーい、風くん。」


小さく呼んでみる。

返事はない。


すると近くの子が笑って、


「おーい、風くーん!」


みんなも真似をする。

「風くーん!」


先生まで笑っていた。

ノエルも笑う。


なんだ。

やっぱり、まだ話せないや。


歩き始める。

でも、少しだけ変だった。


遠くで木の実が落ちる音。

川の流れ。

鳥の羽ばたき。


人の話し声よりも、そんな音の方がよく聞こえる。


風が吹くたび、

耳が、少しだけ遠くまで届く気がした。


竹林へ入る。

さっきまでの賑やかさが、少し遠くなる。


風が吹いた。


さらさらさら……


竹の葉が、一斉に揺れる。

木漏れ日が、ゆっくりと地面を流れていく。


ノエルは立ち止まった。


この音……

知っている。


この光も。


ペール・ラシェーズ墓地。


ママンを見送った日。

木々が風に揺れていた。


あの日も、こんなふうに光が揺れていた。


胸の奥が、少しだけあたたかくなる。

ママン……

今日は、一緒に来てるのかな。


その時だった。


ぶわっ。


今までで一番大きな風が吹いた。


「あっ!」


ナンシーの帽子が飛んだ。

白いうさぎの刺繍がついた、小さなピンクの帽子。


「待って!」


ナンシーが手を伸ばす。

でも、帽子は風に乗って、どんどん飛んでいく。


ノエルも走る。


届かない。

見失った。

どうしよう。


その時。

ノエルは、小さくつぶやいた。


「ゼフ、リラン。」


風が、ふわりと頬をなでる。


さら……

竹の葉が揺れる。

かさ……

どこかで、小さな音がした。


先生も、ナンシーも気づかない。

ノエルだけが立ち止まる。


もう一度。

かさ……

あっちだ。


落ち葉の間を走る。

竹の根元。

白いうさぎが、こちらを向いていた。


違った。

白いうさぎの刺繍がついた帽子だった。


ノエルは帽子を拾う。


「ナンシー!」


振り向いたナンシーが、ぱっと笑った。


「ありがとう!」


帽子を抱きしめる。


「飛んでいっちゃうかと思った。」


ノエルも笑った。


「よかった。」


でも、

本当は、

僕じゃない。

風が教えてくれたんだ。


竹の葉が、さらさらと揺れる。

まるで、


「どういたしまして。」


そう笑ったような気がした。


つづく



また、

風のいたずらを見つけに来てください。


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