↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
105/108

第39話 新しい魔王


エルネと別れ、城へ戻った二人。


けれど魔界では、

新たな争いが動き始めていました。


そして、ノエルにはひとつの考えが……。



Le nouveau roi-démon。


ミュルラスとノエルは、

森へ消えていくエルネを見送った。


振り返ると、

美しい庭は、

湖の底に沈んでいた。


ミュルラスが呟く。


「一度、城へ帰ろう」


「うん。それがいいね」


ノエルは、空を見上げた。


「風も出てきたしね」


何かが、空を流れている。


雲?


いや。


よく見ると、

無数の何かが動いていた。


生き物のようにも見える。


ミュルラスも、

空を見上げる。


「嵐が来るな」


「そうなの?」


ノエルは目を凝らした。


「あれは何?」


「ああ。魔蟲の一種だ」


「魔蟲?」


「ちょっと厄介なやつらだ」


そう言って、

ミュルラスは、

ノエルの手首を掴んだ。


*


城へ戻ると、

ラザンが待ち構えていた。


「魔王様、大変です」


「なんだ」


「ズーズル一味が、反旗を翻しました」


ミュルラスの顔が変わった。


「……そうか。始まったか」


「一味はすでに移動を始めております」


「行き先は東か?」


「はっ」


「村で情報を集めたな」


「そのようです」


ミュルラスは、少し考えた。


「どうなされますか?」


「そうだな」


口元が、わずかに上がる。


「罠に落ちたふりでもするか」


そして、ノエルを見る。


「ノエルは待っていろ」


「ミュルラス、戦うの?」


「売られた喧嘩だ。当たり前だ」


「……」


「全滅させてやる」


「喧嘩は駄目だよ」


「は?」


「話し合えないの?」


「魔王に何を言う!」


ラザンが、ノエルを睨む。


「よい」


ミュルラスが止めた。


「ノエル」


「うん」


「話し合いは、もう千年してきた」


「……」


「やらなければ、こちらがやられる」


少し間を置く。


「もう部下もやられている」


ノエルは黙った。


「僕には、魔界のことはまだ分からない」


ミュルラスを見る。


「だから、君を信じる」


「……」


「君が必要だと思うことをすればいい」


そして、


「でも、僕も連れていって」


「駄目だ」


即答だった。


「足手纏いだ」


「いや、大丈夫」


その瞬間、

ノエルが、消えた。


「……」


ミュルラスが、目を見開く。


「ノエル?」


返事がない。


「どこだ?」


ラザンも辺りを見る。


「何の魔法だ?」


ふっ。


突然、

ノエルの顔だけが現れた。


「ここ」


「うわっ!」


ラザンが一歩下がった。


ノエルは笑った。


「これ、エルネにもらったんだ」


「じじいに?」


「祠を出てすぐ」


ノエルは、古びた灰色のマントを見せた。


「あやつが、お前を足手纏いと言った時に使うといい、って」


「……あのじじい」


「存在を隠すマントなんだって」


「姿を消すだけか?」


「違うみたい」


もう一度、ノエルがマントを被る。


消える。


ミュルラスは、

ノエルがいた辺りへ手を伸ばした。


「……?」


そこにいるはずなのに、

どこへ手を伸ばせばいいのか、分からない。


触れようとすると、

意識が、ほんの少し別の場所へ逸れる。


「なんだ、これは」


ノエルが、また顔を出した。


「すごいでしょ」


「気配遮断か?」


「それより強いみたい。そこにいるっていう認識そのものが薄くなるんだって」


「……厄介だな」


ミュルラスは、マントを睨んだ。


「盗まれたら大変だぞ」


「大丈夫。エルネが選んだ人しか使えないらしいよ」


ミュルラスは、しばらく黙った。


「……やるな、あのじじい」


けれど、

すぐに首を振る。


「それでも駄目だ。危険だ」


「ラザンも行くんでしょ?」


「ああ」


「じゃあ、僕が危なくなったら、ラザンと帰る」


「なにを勝手に――」


ラザンが口を挟む。


「それならいい」


「魔王様!」


「お前が守れ」


「……はっ」


ミュルラスは、椅子へ座った。


「で、ズーズルの手下となると、二千くらいか?」


「今回は千五百ほどを連れているようです」


「じゃあ俺一人で余裕だな」


「……」


ラザンは否定しなかった。


「たぶん俺が、東の賢者に会いに行くと言ったからだ」


ミュルラスが、地図を見る。


「先回りしたな」


「その可能性が高いかと」


「ラザン。どう進める?」


「はっ」


ラザンが地図を指した。


「ズーズル一味の中には、すでにこちらの者を五十ほど潜伏させております」


「早いな」


「そのうち機動力の高い者から、随時位置が送られております」


「ズーズルは?」


「確認しております」


ラザンの表情が、少し険しくなった。


「他の者は、正直、魔王様の敵ではございません」


「だろうな」


「ですが、ズーズルは厄介です」


「あいつはな」


ミュルラスも、眉を寄せる。


「幻影魔法に、罠に……こそこそしたものばかり得意だからな」


「魔王様の性格を知った上で、待っているものと思われます」


「なら、位置が分かったところで全部崩すか」


「おそらく、それも想定しております」


「面倒だな」


その時、

ノエルが、二人が見る。


「ねえ、いい考えがある」


「なんだ」


「僕とミュルラスが、入れ替わるのはどう?」


「は?」


「僕には、このマントがある」


ノエルは続けた。


「それに、ラザンもいる」


「それがどうした」


「卑怯な人なら」


「僕を人質にしようとするんじゃない?」


ミュルラスの顔が、

ぴたりと止まった。


「……」


「だから」


ノエルは、ごく普通のことのように言う。


「僕に化けた君が捕まる」


「俺が?」


「うん」


「捕まる?」


「うん」


ミュルラスの眉間に、

深い皺が寄った。


「嫌だ」


「なんで?」


「こそこそ小物みたいな真似はしたくない」


胸を張る。


「俺様の強さを――」


「魔王様」


ラザンが遮った。


「なんだ」


「僭越ながら申し上げます」


「言え」


「ノエルの策。今回は有効かもしれませぬ」


「……」


「敵は、勇猛果敢な魔王様の性格を知った上で罠を張っております」


「そうだ」


「ならば」


ラザンは、静かに言った。


「敵の裏をかく。それもまた、新たな魔王様の戦い方ではございませんか」


「……知恵」


ミュルラスが呟く。


どこからか、

ほっほー。

そんな声が、聞こえた気がした。


「エルネなら、きっとそう言うよ」


「分かってる」


「知恵で戦えって」


「分かってる!」


しばらく考えてから、

ミュルラスは息を吐いた。


「……やるか」


ノエルを見る。


「ただし」


「うん」


「危なくなったら、すぐそのマントを使え」


「分かった」


「勝手なことをするな」


「うん」


「ラザンから離れるな」


「うん」


「絶対だぞ」


「分かったって」


ラザンが、

何とも言えない顔で二人を見ていた。


*


風呂に入り、

食事をとり、

明日に備えて、少し眠ることにした。


ベッドの中。


ノエルは、天井を見ながら思った。


明日は、

僕が魔王になる。


ふふっ。

笑いが漏れた。


「なんだ?」


隣で、ミュルラスが寝返りを打つ。


「いや」


ノエルも、横を向いた。


「明日は僕が魔王で、君がノエルなんだなと思って」


「ああ」


「変なの」


「そうだな」


ミュルラスは、

ノエルを、そっと抱き寄せた。


「……?」


「ミュルラス?」


「暖かいな、お前」


「え?」


それきり、

返事はなかった。


すぐ近くから、

ミュルラスの静かな寝息が聞こえてきた。


à suivre…



二千年、

力で戦ってきた魔王。


今度は、少し違う戦い方をするようです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。