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第34話 勇者のメダル


ゾゾルンデ村の探検に出かけた三人。


勇者には、

どうしても見つけたいものがあるようです。


そして、小さなよろず屋で、

ノエルも出会いがありました。



La médaille du héros


ミュルラスは、

小さな村をくまなく歩いた。


路地。


家と家の隙間。


井戸の裏。


樽の中。


扉。


箱。


「ミュルラス」


「なんだ」


「勝手に開けたらだめだよ」


「勇者は開ける」


「勇者でもだめだよ」


細い隙間まで覗き込む。


「ないな……」


「何が?」


「メダル」


「そりゃそうだよ」


「おかしい」


「何もおかしくないよ」


その時。


エルネが、

道端に積まれていた古い木箱の前で止まった。


「……これは何じゃ?」


「ん?」


三人で覗き込む。


壊れた木箱の中。


小さなものが、

ひとつ光っていた。


「……」


ミュルラスが、

手を伸ばす。


小さなコイン。


「おおおおおお!」


立ち上がった。


「あったぞ!」


「ええ?」


ノエルも覗き込む。


「本当に?」


「ほら!」


古いコインだった。


何かが刻まれている。


けれど、

摩耗していてよく分からない。


「メダルなの?」


「メダルだ」


「普通のお金じゃない?」


「メダルだ!」


エルネが、

髭を撫でる。


「ほっほー」


「見つけたぞ!」


ミュルラスは、

嬉しそうにコインをしまった。


そして。


壊した木箱を、

きちんと元に戻した。


*


三人は、

もう少し村を歩いてみることにした。


小さな村だったが、

通りにはいくつか店が並んでいた。


武器屋。


防具屋。


ミュルラスは、並んだ剣を眺めたり、

奇妙な形の兜を手に取ったりしていた。


「買うの?」


「いらん」


「じゃあ、何を見てるの?」


「勇者は武器屋を覗くものだ」


「……そうなんだ」


エルネが笑う。


「ほっほー」


最後に、

小さなよろず屋へ入った。


食料品。


薬草。


魔法道具。


何に使うのか分からない瓶や箱。


棚には、

古びた本も何冊か並んでいた。


ノエルは、

その前で足を止めた。


「……あ」


一冊だけ、

目を引く本があった。


古い本だった。


けれど、

表紙は不思議なほど美しい青色をしていた。


深い青の中に、

わずかに銀色が混じっている。


角には、

繊細な金色の飾り。


ノエルは、

そっと手に取った。


表紙に、

金色の文字が刻まれている。


「……あれ?」


読める。


「エルネディアスの魔導書……」


ノエルは、

本を開いた。


中には、

見たこともないほど美しい文字が並んでいた。


まるで、

細い糸で模様を編んだような文字。


「わあ……」


指先で、

そっとページの端に触れる。


けれど、

読めない。


一枚めくる。


その下に、

また文字があった。


「……エルネディアス」


ノエルは、

首を傾げた。


「なんか、聞いたことあるな……」


「ほっほー」


すぐ後ろで、

エルネが笑った。


「……」


ノエルは、

本を見た。


それから、

エルネを見た。


「……え?」


もう一度、

表紙を見る。


「ええっ! もしかして、これ、エルネが書いたの?」


「ほっほー」


エルネは、

髭を撫でた。


「若い頃に、ちょっとのう」


「すごい!」


ノエルは、

もう一度ページをめくった。


「こんなに綺麗な文字、初めて見た」


「そうかそうか」


「でも、全然読めないや」


「ほっほー。少し難しい本じゃからの」


「ねえ、これ、読んでみたい」


エルネは、

ノエルの顔を見た。


「そうか?」


「うん!」


「では、わしが買ってやろう」


「えっ、いいの?」


「もちろんじゃ」


その時。


ミュルラスが、

横から口を挟んだ。


「じじい」


「なんじゃ」


「自分で書いた本を、金を出して買うのか?」


「ほっほー」


「何がおかしい!」


エルネは、

店主に代金を払った。


そして、

青い本をノエルへ渡した。


「大事にするんじゃぞ」


「うん。ありがとう、エルネ!」


ノエルは、

本を胸に抱いた。


ミュルラスは、

その本をちらりと見た。


「そんなもの、読めるのか?」


「今は読めないけど、見てるだけで綺麗だし……」


ノエルは、

もう一度表紙を眺めた。


「なんだか、惹かれるんだよね」


そして、

大切にしまった。


*


宿屋へ戻る頃には、

日が暮れていた。


一階の食堂。


飾り気のない、

小さな食堂だった。


それでもミュルラスは、

上機嫌だった。


「フープを三つ」


肉の煮込み料理。


それから、

ゴールの実の飲み物。


この辺りの特産品らしい。


しばらくして、

泡の立った飲み物が運ばれてきた。


ノエルは、

グラスを見る。


「これ、お酒じゃない?」


「酒じゃない」


ミュルラスが言う。


「お前も飲め」


「……本当?」


「そうだ」


「なんか怪しい」


エルネが、

ノエルのグラスを見る。


杖を、

ちょんと向けた。


「お前のは、酒気を抜いておいたぞ」


「やっぱり入ってたんだ!」


「少しだ」


「少しでもお酒でしょ!」


ノエルは、

自分のグラスを飲んでみた。


甘い。


かなり甘い。


「……甘い」


「うまいぞ」


「君、こういうの好きだよね」


その時、


ミュルラスが、

何かを思い出した。


「そうだ」


空間へ手を入れる。


「何?」


「いいものがある」


取り出した。


瓶。


ノエルは、

見覚えのある文字を見た。


「……焼肉のたれ?」


「ああ」


「そんなの、どうしたの?」


「ベルサイユから持ってきた」


「いつの間に……」


「これをかければ、味の薄い魔界の肉も、たぶんマシになる」


「煮込み料理だよ?」


「肉だろ」


「そうだけど」


ミュルラスは、

フープへ焼肉のたれをかけた。


たっぷり。


「そんなに?」


「これくらいだ」


ノエルも、

少しだけかけてみる。


食べる。


「……」


「どうだ?」


「……さっきよりは」


「うまいだろ」


「かろうじて」


エルネも、

少しかける。


「ほっほー」


三人で、

魔界の肉を食べた。


ノエルは、

ふとエルネを見た。


「ねえ」


「なんじゃ?」


「あのコイン」


「コイン?」


「エルネが、置いてくれたんじゃない?」


「……」


エルネは、

甘いゴールの実を飲んだ。


「なんのことかのう」


「だって、あんな都合よく……」


「ほっほー」


そう言って。


片目を、

つぶったように見えた。


ノエルは、

少し笑った。


隣ではミュルラスが、


大事そうに、

古いコインを眺めていた。


à suivre…



勇者のメダルと、

青い表紙の魔導書。


それぞれに、

思いがけない宝物ができました。


そして、魔界の煮込み料理には、

ベルサイユから持ってきた焼肉のたれ。笑


ゾゾルンデ村での、ささやかな一日でした。


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